四月になれば彼女は
黒猫はもう動かない。
取引相手に尋ねると、試作品であったから元々数ヶ月しか動かないようプログラムされていたのだと返答された。まさしく寿命が尽きたのだ。
そんなにお気に召したなら、修理するか、完成品を差し上げましょうか。
相手の申し出を、ガイナンは丁重に断った。念のため、断る前にJr.にその申し出を伝えたが、予想通りに「どちらもいらない」と彼は答えた。
レプリカの猫の死に、Jr.は悲しむ様子は見せなかったが、その「死体」を近くの人工林の樹の根元に埋めると言い出した。
機械の猫は土には還らないだろう。
だが、ガイナンは止めなかった。
どうせこの地面も、そこに降り注ぐ雨も、梢を鳴らす風も全部紛い物だ。
動かない彼女を覆う土さえも。
Jr.は喪失を悲しまないと言ったが、それは嘘だとガイナンは思った。
彼は悲しむ事ができないだけだ。置いていかれる事に慣れなければ、生きていけないから。
ニグレドはもういない。
彼女は死んで、それを思い出すJr.の愛情も色褪せてゆくのだとしても。
紛い物の猫を亡くした記憶は、Jr.の心に小さな棘となって残るだろう。
――願わくば、いつか訪れる自分の死も彼にとっての棘となるように。
祈りを込めて、ガイナンは機械の猫に土を被せた。
見上げた空は嘘のように深く美しい青だった。