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sweets

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 疲れてるときは糖分だろ、となぜだか胸を張りながら、ロックオン・ストラトスが白い箱を開けると中には色とりどりのケーキが並んでいた。シュークリームにショートケーキ、チーズケーキ、ベリーのタルト、チョコレートのムース、サヴァラン、オレンジ色の鮮やかなこれはなんだろう? 首を傾げるフェルトの背後でクリスティナ・シエラが歓声をあげていた。かわいい、おいしそう!衒いのない賞賛に気を良くしたロックオンはそうだろうと大仰に頷いた。ひとり一個ずつあるからな、好きなやつ選んで食え。傍らのハロが語尾を捉えて復唱する。それを合図に、トレミーのブリッジは俄にお茶会の場となってしまった。緊張感のないことこの上ないが、指揮官自らが、どれも美味しそうねえ、迷うわあ、と目を輝かせているのだからしょうがなかった。あのティエリアでさえ、眉をひそめてため息を吐くだけで、文句を言おうともしない。
「お茶淹れてきますね。アールグレイでいいかな、コーヒーの方がいいって人いる?」
 アレルヤの問いかけに幾人かがまばらに手を挙げた。わたしはペリエがいいわ、と戦術予報士が楽しげに言う。アレルヤが苦笑を浮かべていると、おまえさんはどれにする?とロックオンが問うた。奉仕の代わりに選択権を与えられたらしい。チーズケーキがいいかな、と答えて、アレルヤは食堂に向かった。
「ねえねえ、フェルトはどれにする?」
 年下のクルーに問うクリスの声も弾んでいる。フェルトは少しのあいだ思案して、いちごが乗ってるの、と呟いた。ジュレを塗された果実はつややかに光って、いかにも甘くて美味しそうだ。クリスは微笑んでみせた。じゃあ私はオペラにしようかな、ねえフェルト、半分こしない? チョコレートの甘い匂いと迷っていたフェルトははっと頬を紅潮させて頷いた。
「よしよし、ショートケーキとオペラは売約済みな」
 革手袋を嵌めたロックオンの右手が、淡い花色の髪の毛を優しく撫でた。
「サヴァランは当然、私よね」
「はいはい、そのあまーいアルコール浸しのはミス・スメラギ専用だとも。あとはちっこい順な。刹那はどれがいい?」
「どれでもいい」
 熱の籠もらない視線がちらりと箱の中を一撫でする。けれどあいにく狙撃手の目は特別製だ。刹那の目がほんのコンマ何秒かの間長く捉えていたのを見逃さず、彼は浅く笑ってシュークリームを小皿に取った。少し驚いたように視線を上げる刹那ににやりと笑い返す。
「ティエリアは生クリームあんまり得意じゃなかったよな。タルトでいいか?」
 名指しされたティエリアはかたちの良い眉を片方上げて、問題ありませんと固い声で答えた。いつも通り愛想はないけれどまんざらでもなさそうだ。そうしてみんなにケーキを配り終えるころに、紅茶やらコーヒーやらペリエやらのタンブラーを抱えたアレルヤが帰ってきた。それを労いながら、ロックオンは「地球だったらちゃんと茶葉から淹れてやるんだけどなあ」と少し残念そうに言った。トレミーがいかな最新鋭の技術を積んだ航宙艦とはいってもさすがに地上と全く同じようにはいかない。生まれてからずっと宇宙で生活するフェルトにはその不便さはピンとこなかったけれど、時折懐かしそうに地球を語るロックオンのことを彼女は嫌いではなかった。こんなふうにさりげなく、みんなのためにケーキを買ってきてくれるし。フェルトにとってはトレミーのクルーは家族のようなものだ。だから、そんな場合ではないのだとわかっていても、みんなが楽しそうだと嬉しかった。
 ほんの小さな微笑みを浮かべて、フェルトはフォークでスポンジを切って口に運んだ。
 ロックオンは、やさしくてあまい。このケーキみたいに。

作品名:sweets 作家名:カシイ