sweets
地球から帰還したティエリアの手に携えられた白い箱に、フェルトは目を見開いた。
刹那やアレルヤもはっとしたように手を止めている。紙箱に細い金色のロゴが入ったそれにミレイナが無邪気な歓声を上げた。それにはにかむような笑みを浮かべて、ティエリアは手にした箱をミレイナに差し出した。
「土産だ」
「わぁ! アーデさん、ありがとうございますぅ!」
「人の真似をしているだけだ。気にするな」
ミレイナが首を傾げるよりも早く、ティエリアはついと視線を逸らした。その背を追ってフェルトは歩み寄る。かつてに比べるとずっと目の高さが近づいた。額にゆるくかかる前髪を払いながら、ねえ、と彼女はティエリアを見据えた。
硝子玉のような赤い瞳がフェルトを映す。
「……感傷だということは、わかっているんだ」
ひそやかな懺悔のような言葉をフェルトは黙って聴いていた。訥々と零れるそれは幼い子どものような響きさえあった。大人と子どものあいだのような、本当ならば一瞬で過ぎ去ってしまう過渡期に時間を止めてしまったように彼は変わらない。もっともそれはたとえば持て余すように伸びた手足や細い首筋に限った話で、その内面はやわらかく変容を遂げていることは知っていた。だけど、と、か細い声が言う。
「ショウケースを眺めて、きみはいちごが好きだっただろうか、ミレイナがいちばん喜ぶのはどれだろう、刹那はあの時シュークリームを選んでいた――そんな風に考えるのは楽しかった」
「ティエリア」
「――楽しかったんだ」
少し俯いたティエリアは途方に暮れた子どもの顔をしている。フェルトは横に並んで「そうだね」と呟いた。
「きっと、ロックオンも楽しかったんだよ」
ティエリアは驚いたように瞬いてフェルトを見下ろした。
「だから、お茶にしようよ。せっかくのティエリアの差し入れだもの。ね?」
彼が頷くよりも先に、アレルヤが僕お茶を淹れてきますねと言った。刹那が俺も行くと頷いてみせた。様子を伺っていたミレイナの顔がぱっと華やいで、イアンは苦笑を漏らしている。ロックオンは――彼は、一瞬不思議そうな顔をしてみせたけれど、次の瞬間にはいつもの人懐こい笑いがおで、ミレイナと一緒になって箱の中を吟味し始めた。
それらを見つめていたティエリアは、またたきを繰り返してからふわりと笑った。