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高く険しいプライドと少年の恋心は並び立つか

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1.高く険しいプライドと少年の恋心は並び立つか

もうすぐ、ウィンリィの誕生日だね。何気ない口調、まるで天気の話でもするみたいにごくごく自然に弟は言った。
勿論、オレがその日を忘れるわけなどない。得意げに錬金術でつくってやったプレゼントに大泣きされた記念日だ。忘れようもない。忘れようもないのだけど。
「そ、そうだったっけ」
オレは忘れたフリをした。なんてったって、オレもウィンリィも幼馴染といえどもオトシゴロなわけで、誕生日なんてこっぱずかしいイベントはクリスマスやバレンタイン同様オレのプライドのためにもぜひとも回避したいものなのである。このオレの素晴らしい記憶力をもってしてウィンリィの誕生日を忘れるなどということはありえないのだが、オレは忘れたフリをしなければならないのだ。
「そうだったっけ、って兄さん。クリスマスもバレンタインも誕生日も、毎年同じパターンじゃない」
アルの視線が妙に痛い。オレは何気ない素振りで視線をそらした。
「んなこと言われたって、オレはどーでもいいことは覚えない主義なんだよ」
本当はウィンリィの誕生日もクリスマスもバレンタインもどうでもいいことではないのでしっかり記憶している。記憶しているが認めては負けなのだ。自慢ではないがオレのプライドはそれはそれはもうブリッグス山脈のごとく高く険しい。
「・・・・・・まあ兄さんの意固地も今に始まった事じゃないからどうでもいいけどさ、どうするのウィンリィの誕生日。リゼンブールに帰るの?」
「はぁ?オレたちは忙しいんだ、そんな暇なんかないだろ」
冗談じゃない。誕生日のために帰るなど、こっぱずかしいにもほどがある。どんな顔をして会えばいいというのだこの弟は。
「いいじゃない一日ぐらい羽のばしたってさ。ウィンリィだって喜ぶと思うよ」
「貴重な時間をそんなことで潰せるかよ。アルが電話でもしとけば十分だろ」
「帰らないならそれで仕方ないけど、電話するなら兄さんもするんだよ」
「は?オレはいいだろ別に」
アルの口調がだんだんと苛苛したものになってゆくのに少し腰がひけたが、それでもオレは負けじと意地を張り通す。なんてったってオレは弟とプライドに命をかけているのだ。
「いつも機械鎧は壊すし電話一本手紙一通の連絡もしないしで心配も迷惑もおつりで家一軒買えちゃうくらいかけてるのに幼馴染兼好きな人の誕生日にお祝いの言葉もかけないなんてそんな恥知らずの畜生に育てた覚えはないよ兄さん」
おまえに育ててもらった覚えは無・・・いやあるかもしれないな・・・・・・いやそれより幼馴染というのはわかるがいつからウィンリィがオレの好きな人になったのか断じて違うそんなことはない、ないぞ絶対あってたまるものかオレは認めないぞ弟よ。
なまじ頭の回転が速いだけにオレの脳内は活発に様々な台詞が飛び交い結局口をぱくぱくと空腹時の金魚のごとく開閉させることしかできなかった。だいたい弟の言葉には一理ありすぎて反論できようはずもない。
「兄さんがどうしようもない野暮天なのはもう校正の余地もないから仕方ないとしても、せめて電話で祝福とさりげない愛の言葉を囁かなければ男じゃないよ」
「は?!ちょっと待てアル、祝福はいいが愛の言葉ってどういうことだ」
「どうもこうもないよ愛は愛だよそれ以上でも以下でもないよ。兄さん引いてばっかなんだからたまには押してみなきゃまったく情けない」
ホントについてんの、と弟はとんでもないことを言った。きっとこれはオレの耳がおかしかったんだと思う。思いたい。
「な、なんでオレがウィンリィにその、あ、愛の言葉なんて」
「ああもううるさいな、帰らないんなら電話するんだよ、絶対に!しなきゃ絶交だよ、縁切るよ、二度と『兄さん』って呼んでやらないよ」
「あっすんませんオレが悪かったですちゃんと電話しますから許してください」
エベレスト級のプライドはさくっと弟によって踏破されてしまったがオレは悔しさ反面ちょっと内心嬉しかったりと複雑だったりもする。



2.当日、電話越しのときめきと脅迫

今日、ウィンリィの誕生日だね。何気ない口調、まるで天気の話でもするみたいにごくごく自然だがどこかに何か含む声音で弟は言った。
勿論、オレがその日を忘れるわけなどない。つい先日弟に確約させられたことも、一言一句はっきりくっきり覚えている。覚えているのだけれど。
「ああ、そうだったっけか」
オレはまたしても忘れていたフリをした。この後に及んでくどいようだが、オレのプライドは高いのだ。オレとウィンリィは幼馴染といえども男と女なわけで、それを改めて認識することほどこっぱずかしいことはないのだが、誕生日やクリスマスやバレンタインといったイベント事はオトシゴロになるとどうもそのこっぱずかしい思いをするハメになる。
「兄さん、男に二言はないよね」
「・・・・・・ああ、わかってるよ。けどなアル、どうせならお前から先に」
「僕ならもう電話したからね。あとは兄さんだけだよ」
「・・・・・・・・・・・・そうか」
なんだかアルがやけにうきうきしているような気がするのは気のせいだろうか。心なしか巨体がリズミカルに揺れている。
「・・・・・・アル、なんかいいことあったのか」
「えっううんまだないよ今からあるんだよ。だから早く電話して」
じゃらじゃらと小銭だけで異様にふくれた財布を渡された。今日のために銀行でいっぱい両替してきたよ、とアルはとっても嬉しそうに言う。
「・・・・・・アル、兄ちゃんが電話するのがそんなに嬉しいのか」
「うんだって兄さんすっごくじれったいんだもん」
いいから早く電話してよ早くしないと縁切るよ、とアルはオレの背中をぐいぐい電話のほうへ押しやった。そこで兄の威厳をもって叱りつけてやれないオレも大概情けない。
仕方なくオレは人気の無い道の電話ボックスに入って受話器を取り、硬貨を数枚投入口に入れた。ガラにもなく、ちょっとだけ手が震える。
逃げ道はないかと外を横目で盗み見ると、しっかりと出口にアルが仁王立ちになっていた。オレも信用がなさすぎるようだ。
仕方なくため息をついて、押しなれた番号をわざとゆっくり押していく。
コール音が鳴る間、なんて言おうか、いろんなやりとりを頭の中でシュミレートしているうちに。
『はい、ロックベルです』
出た。
当たり前なのに、オレはなぜだか大いに慌てた。
「あ、その、ウ、ウィンリィ?」
声が上ずった。今すぐ電話を切りたかったが、ちらりと外を見るとアルに睨まれたので慌てて硬貨をもう一枚投入口に入れて誤魔化す。
電話越しの幼馴染の少女は一瞬驚いたように言葉に詰まり、かすかに『エド?』とこぼした。あんなに上ずって聞き取りづらい声でも、ちゃんとわかってくれたらしい。
「ああ――。その、今日―――」
『ちょっとまさかあんた、この間修理したばっかだってのにまた機械鎧壊したんじゃないでしょうね』
おめでとう、と言いかけた言葉は途中でウィンリィの怒鳴り声に消された。オレが電話した=機械鎧を壊したということになるのかこいつは、と少々腹ただしい思いだったが、よく考えてみればオレは機械鎧を壊したときしか電話をしないのだ、そう思われて当然であった。
「バカ違うっつの。人の話は最後まで聞けよ」