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高く険しいプライドと少年の恋心は並び立つか

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『えっウソ違うの。なんだじゃあ何の用』
ひどい言い草だ。「ウィンリィだって喜ぶと思うよ」と言ったじゃないかアル。これのどこが喜んでるんだ。
「だから―――アルからも電話あったんじゃないのかよ。今日、その・・・誕生日だろ。だから―――」
『は』
ウィンリィはかなり間の抜けた声を出した。
「・・・・・・おまえ、せっかくオレが祝いの言葉でも述べてやろうと思ってんのにケンカ売ってんのかよ」
『え、違うわよそうじゃなくって。まさかそれで電話してくれたの』
ウィンリィの声はなんだかとても嬉しそうに聞こえた。あくまで聞こえただけで、本当はそうじゃないのかもしれなかったが。どちらにしろ、調子が狂う。
「まあ、その・・・一応な。アルがうるせぇから―――」
『アル?そういえばあんたさっきアルから電話あったんじゃないのかとか言ってたけど。そんなのないわよ』
「何ィ?!」
『なんなのよ、そんなのどうでもいいでしょ。だけどアルからはちゃんとプレゼント届いたわよ』
勿論オレは送っていない。くどいようだがプライドの問題だ。
「あっそう。オレは送ってないからな」
『わかってるわよ、あんたそんなタマじゃないでしょ。期待もしてない』
そこまで言われるとそれはそれで切なくなる。勿論自業自得ではあるのだが。
『あたしは、あんたが機械鎧壊さずに無茶してなければそれでいいわ』
ウィンリィのその台詞に、オレはガラにも無く頬が熱くなってしまったりしてアルに見られないようにこっそり右手で頬を冷やした。時折、ウィンリィは無意識にこういうドキッとするようなことを平気で言ってのけるのでこっちの身にもなってほしい。
「あぁ・・・・・・今んとこ機械鎧も異常ナシだし、危ないことも特にやってない」
結局オレはこんな返答しかできなくて、こんなことならもう少しあのスケコマシ大佐の話術を見習っておくべきだったとほんのちょっぴり蟻の足先ほど後悔した。
『そう、あんたのその特に、はあんまり信用できないけど。元気そうだから、そういうことにしとくわ。だけど、次は修理じゃなくて整備に帰ってきなさいよ。ちゃんと定期的にね』
「ああ」
そこで会話が途切れて、沈黙が流れた。
まずい、オレはこういった沈黙が大の苦手だ。どちらかが何らかの言葉を待っているこの空気、そして言わなければならないのはオレの方。やわらかでしかし緊張感のただようこの甘やかな沈黙はオレの電話嫌いの理由の一つである。しかしここで黙っていては男じゃない。オレは意を決して口を開いた。
「ウィンリィ」
『え?』
「・・・・・・・・・誕生日オメデトウ」
ウィンリィは一瞬面食らったかのように間を置いて、それから少し笑ったらしい気配がした。
『うん、ありがとう』
よしオレ、とりあえず合格。第一関門をクリアして、オレは内心胸をなでおろした。が。
もう一つのアルの確約、「愛の言葉」とは一体何を言えというのであろうか。いやひょっとしなくともアレか。好きだとか愛してるとかいう歯が30メートルくらい浮きそうなアレか。アレなのか。無理だ絶対。
「あ、あのさ」
『うん?』
「その・・・おまえも、無理すんなよ」
これでもう合格点だろう絶対そうだろうこの台詞でもう歯が10メートルくらい浮きそうだ。きっと今オレの顔は赤いかひきつっているかのどちらかに違いない。
『う、うん』
ウィンリィの声もいささか照れ気味でさらにこっぱずかしい。悪い気はしないけれど。
オレが照れくさくて何も言えずにいると、ウィンリィのほうから先手をうってきた。
『ねえ、エド。今度は、誕生日もクリスマスも、全部とは言わないからひとつは帰ってきてよ』
「え」
『電話してくれただけでも大した進歩だけど、たまには機械鎧のためだけじゃなく帰ってきてよ』
「え」
『絶対よ、約束だからね、帰ってこないと縁切るわよ、昔のあんたのこっぱずかしい話をあることないこと匿名で軍部にいやマスタング大佐のとこに送りつけるわよ』
「は」
『絶対よ』
お前嫌なところがアルに似てきたな。思うまもなく電話を切られた。
余った硬貨が何枚か落ちてきて、どうやら思ったより通話時間は短かったらしい。ずいぶん長く感じられたが。
電話ボックスから重い足取りで出ると、今にも小躍りしそうなアルがどうだった、と好奇心いっぱいに話し掛けてきた。一応、盗み聞きなんて無粋な真似はしなかったらしい。
「・・・・・・アル、今から速攻でリゼンブールに帰るぞ」
「え」
「今から行けばなんとか今日じゅうに向こうに着くだろ」
「え、でも切符とれるかな」
「取れなかったら貨物室にでも隠れて乗り込む」
「兄さんそれは犯罪だよ」
「とにかく帰るんだよほらぼさっとしてんじゃねぇ」
なんなんだよ突然、とアルは言うがけっこう嬉しそうにしている。なにかあったと勘違いしてくれたらしい。いやなにかあったのは本当だが、アルが思っているなにかは恐らく歯が30メートルくらい浮きそうな方のなにかだろう。
まあオレはオレで、これで意地をはらずにリゼンブールへ帰れるのでけっこう嬉しかったりもするのだがそれはブリッグス級のプライドにかけて認めるわけにもいかないのでとりあえず仏頂面を顔にはりつけて、この表情を幼馴染のいる家まで持たせる算段に余念がなかった。