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モルヒネのような優しさがいとおしい

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つかれたもうだめしんじゃうあるけない、さんざんわめいて重そうに足を引きずり肩口に縋り付いてきたゼロスによくもまあ口ばかりは滑りが良いものだと半ば呆れ返って、その手を振り払った。体重のほとんどを預けていた手を払われてゼロスが不安定にたたらを踏む。
「ロイドくんつめたーい」
泣きまねするように両手で顔を覆う仕草がおんなのこみたいで滑稽だ。けれど先ほど手を払われてよろめき傾いだ体は疲労からか明らかに動きが鈍磨していた。口調はいつもと変わらずうすっぺらくて浮ついてるのに。
「ほら、しゃんと歩けよ。もうちょっとで街だから」
手を振り払ったことを少し後悔した。けれど今更よりかかっていいよなんてなんとなく言えなくて決まり悪い思いで隣に並び背中をぽんと叩いてせめて励ましてやる。
「俺さま神子さまなの。ちょーデリケートなの。ロイドくんとは育ちが違うのー」
顔を覆ったまま恨みがましい口調で言ってくる。こいつがどんな暮らしをしていたのか貴族なんてもの自体存在しないシルヴァラント出身の自分には想像するのも難しいのだけれど、立派な屋敷とか驚く話だけれどなんでも身の回りの世話をしてくれるシヨウニンだとかそんなものを見ればなんとなく、本当になんとなくだけどゼロスの生活の断片を思い描くことはできる。きっとこんな長い距離を自分の足で歩いたことなんかないんだろう。今更になってそう気づいた。
「みんな、ちょっと休憩しようぜ」
顔を覆って泣きまねする男がちょっとかわいそうになったので前を歩く仲間たちに声を張り上げてそう言うと、ゼロスがぎょっとして顔面から手を外しこちらを見た。仲間達も不審顔で振り返る。
「もう少しで街なのよ?ここで休憩しなくても、少し我慢すればベッドで休めるわ」
「ごめん先生、本当に少しでいいんだ。さっきから連戦だったし、ひとやすみしたくて」
申し訳無さそうにそう告げれば、仲間たちは一様に顔を見合わせたがやがてばらばらに頷いた。
「仕方ないわね。それじゃあ、少し休みましょうか。このへんなら安全そうだし」
先生の言葉をきっかけに全員思い思いに辺りに座り込み休み始める。それを見届けて、自分も近くの手ごろな樹木の側に腰掛けた。ゼロスはぼんやりと立ち尽くしている。つかれたしんじゃうなんて言ってたくせに。
「ゼロス?」
声をかければはっとして振り返ったので、座れという意味で自分の隣の地面をぽんぽん叩いて見せた。ゼロスは少し何か考える風に立っていたがやがてふうと息を吐いて指示したのと反対側の俺の隣に腰掛けた。
「休憩なのに嬉しそうじゃないな」
なんとなく足先を気にするふうに座るゼロスに首をかしげつつ言うと、ゼロスは苦虫をかみつぶしたみたいな顔でぼそりと「頼んでねーし」と呟いた。つかれたしんじゃうとかわめいていたのは自分のくせに。
「もう歩けないって言ったの誰だよ」
「あれはジョークっつーかちょっと大袈裟に言ってみただけなの、わかろうぜそーゆーこと。俺さまとロイドくんの仲だろー」
大仰に肩をすくめるゼロスだが一体どんな仲だというのか。疑問をそのまま投げかけるとゼロスはやっだぁロイドくんってば、と少々おばさんくさい仕草でばしりと肩をたたいてきた。
「ホラ、あはんの呼吸ってやつ?」
「・・・阿吽だろ」
なんとなく読めたやりとりにゼロスはバカにつっこまれたバカにバカにされたーとかわめいてまた両手で顔を覆った。こんな無駄な会話もひとつの通過儀礼みたいなもので、こんなプロセスを辛抱強く踏まなきゃこいつの隣にいることはできないのだ。隣に居させないようにしているのかもしれなかったけれど。
「バカでわるかったな」
バカバカ連呼された意趣返しにゼロスの靴先を軽く蹴飛ばしてやった。なんだかんだいって疲れているのはきっと本当だからせめて労わってやろうとダメージの少ない箇所を狙ったのだけれど、ゼロスはこちらが驚くほど飛び上がってぎゃあと叫び靴の上から足をおさえた。ちょっぴり涙目になっている。
「足、どうかしたのか?」
「あっいや別にこれはなんでも」
ゼロスの靴におおわれた足に視線をやるとゼロスはそそくさと視線から逃れるように足を移動させる。なんでもないことはなかろう、軽く蹴られたくらいであれだけ飛び上がったのだから。怪我しているなら手当てしなければいけないじゃないか、当然の判断として逃げる足を捕まえて靴を放り投げるとゼロスが何事かわめいたが聞こえないふりをした。そのまま足をのぞきこむ。
「うわっひでぇマメ」
ゼロスの足はひどい靴擦れとマメができていた。観念したように大人しくなったゼロスは足首を捕まえられたまま渋い顔をしている。
「おまえそうならそうと早く言えよ、こんなひどくなるまで放っとかなくても言えば手当てすんのに」
「言ったじゃん。もうだめしんじゃうあるけないって」
だけど痛いとは一言も言わなかったじゃないか。文句を言いかけて今口論しても詮無いことだと叱責を飲み込んでかわりにため息を吐き出した。皮のめくれかけた足は見ている方が痛い。戦闘中などに負ったよほどひどい傷でない限り先生は回復魔法をかけてくれないけれど(シゼンチユにまかせるのが一番いいのだそうだ)、清潔な布を巻いて痛みを和らげてはくれるだろう。
「先生に手当てしてもらおう」
「ええっいいってそんなん、もうちょっとで街なんだし」
ゼロスは慌てたように首を横に振る。戦闘で怪我をしたときは普通に回復してもらっていたから、手当てされること自体が嫌なわけではないと思うのだが。
「もうちょっとで街なのにもうあるけないとか言ったのおまえだろ。痛いならちゃんと手当てしてもらえって」
「いいってホント、だいじょーぶだから」
これのどこか大丈夫なんだと捕まえたままの足を見下ろしながら少し苛ついた。こいつのことだからちゃんと手入れしているのかもしれない、整った足の爪がちょっぴり割れてしまっているのが目に入る。
「――-なら俺がやる」
頑ななゼロスの目を睨み返して手近な荷物の中を探り、片手で布切れと消毒用のアルコールをひっぱりだした。その間ももう片方の手はしっかりとゼロスの足首を捕まえている。ゼロスは目をぱちぱちさせて布切れとアルコールと自分の足を見比べた。
「じっとしてろよ」
「え、ちょ、待っ」
飲むために持っていた皮袋の中の水を足に思い切りかけてやるとゼロスがぎゃあと叫んで足をひっこめようとしたが、足首を掴む手に力をこめてそれを阻止する。じたばたとゼロスが暴れたがここで離すわけがない。
「いきなりな―――!!!!」
何しやがる、と続けようとしたゼロスの口をふさぐべく、さっと足の水分をぬぐうとすぐにアルコールをぶちまける。ゼロスはとっさに口をつぐんで悲鳴を飲み込んだようで、急に静かになった。痛みに耐えて大人しくなった隙に布をしっかりと足に巻きつけて取れないように固定し、足を解放する。ほんの数分で終わることなのに、ゼロスは何故あんなに手当てを拒否したのか不思議でならない。
「ほら終わり。水ぶくれとかは炙った針で水抜かなきゃなんないから、あとは宿着いてからな」
アルコールの瓶を荷物に戻したついでにグミを放ってやると、ゼロスは反射的にキャッチしてしげしげとそれを眺め、ばつの悪そうな顔で口に入れた。