モルヒネのような優しさがいとおしい
「ロイドくん、傷の手当とかできんだ」
もぐもぐと口を動かしながらわざとくぐもった声で言うゼロスに苦笑しつつ、靴をゼロスの足元に転がす。
「まあ、手当てっつーか、消毒して布巻くくらいなら」
くらいなら。言葉尻を拾ってゼロスがふんと鼻を鳴らした。ごくりと口の中のグミを飲み込んで、布をまかれた足を軽く持ち上げ眺める。
「俺さま、消毒して布巻くくらいもできねーなぁ」
ゼロスはしっかりと布を巻かれた足の具合を確かめるように足首を回しながら、ちょいとファーストエイド唱えるくらいならできるけど、と皮肉気に笑った。
「あ。そういえばおまえ、自分で回復できるんだったっけ。あーでもファーストエイド使うなよ、シゼンチユがいちばんいいんだからな」
先生が言っていた言葉をそのまま使ってみる。ゼロスはじっと布でぐるぐる巻きになった足を眺めながら、使えねーよ、とかすれた声で呟いた。なんだか珍しく情けない顔をしていた。
「痛いのか?」
足がひどく痛むのならファーストエイドを使うなり先生に診てもらうなりしたほうがいいと思ってそう聞くと、ゼロスは布を巻かれた足を大事そうに靴にしまってへらりと笑った。
「いや、痛くない」
痛くない、という言葉が掛け声だったみたいにゼロスは地べたから立ち上がって、ズボンの尻についた汚れを払いながら、さーてそろそろベッドが恋しいことだし出発しよーぜ、といつもどおりのうすっぺらい口調で言った。そのまま何事もなかったかのように仲間たちがいるほうへ歩き出したが、あんがとー、と背中で言ったのもちゃんと聞こえた。よくよく見てみたら微妙に足を引きずっていたけれど、それは見ないふりをして俺も立ち上がりゼロスの後に続いた。
作品名:モルヒネのような優しさがいとおしい 作家名:ぺこ