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生々しく愛咬

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1.

ねむれないな、窓からもれる月のしろっぽいあかりの中でぼんやり光ってみえるシーツのしわを眺めながらため息をついた。ふうと息を吐き出した音は寝静まった宿の部屋の中ではやけに大きく聞こえてすこし焦る。誰も起こしてないよな、首だけ動かしてまわりのベッドをひとつひとつ目で確認する。ジーニアス、リーガル、寝静まった呼吸で深くしずかに上下するシーツにほっとして、それから一番奥のベッドに視線をやれば薄青い瞳とばっちり目があって思わず息をのんだ。
「わるい、起こしちまったか?」
そう言ってはみたけれど、青い目は寝起きとはおもえないほどはっきりとしていたからたぶん起きていたんだろう。案の定低めた声で「起きてた」とみじかく返答があった。いつもうわついた高めの声でしゃべりまくるのとぜんぜん違って、たぶんねむっているジーニアスやリーガルを起こさないためなんだろうけど、低くておちついた声でそっけなくしゃべられると知らないひとみたいだった。
「ねむれないのか」
知らないひとみたいだと思ったのがなぜだか怖くて、そう感じたことをおくびにも出さずに言葉をつづけたけれど、せめてわらってくれないだろうかとなぜだか思った。そうしてくれたら安堵できる気がした。けれどすぐに、知らないひとみたいでも俺はこいつを、ゼロスを知っているじゃないかと思いなおした。知らない顔や声なだけで、知らないひとなわけじゃない。だから怖いことなんかない。
「うん、まあ。ロイドくんも?」
「うん、ねむれない」
今日はかなり早めに宿に着いて、疲れていたせいもあり夕方すこし眠ってしまったのがいけなかったのかもしれない。変な時間に睡眠をとったものだから、目が冴えてしまったのだろう。ゼロスは昼寝したわけじゃないはずだが、眠れない日くらいたまにはあるものだ。夜遊びに出かけることが少なくないこいつならきっと、なおのこと。
「ちょうどいいや、ちょっと付き合えよ」
できるかぎり物音をたてないように起き上がり、ベッドの脇に置いていた剣を手にとりながら言ってゼロスを振り返る。
「体動かせば、眠くなるかも」
な、と笑いかければ、ゼロスはベッドに転がったまま呆れたような視線をくれた。逆に汗かくじゃねーか、酒でも飲んだほうが早いんだけど、ゼロスがいかにも言いそうな文句をその青い目があきらかに物語っている。けれどため息と苦笑をひとつもらすと意外にもすんなりとゼロスはベッドから体を離して、すぐ手の届く位置においてあった剣に手を伸ばした。








2.

夜気はまだすこし冷たくて、上着を着てくればよかったかな、とタンクトップとズボンという自分の出で立ちを見下ろして思う。
「ちょっとさむいな」
ぽつりと隣を歩くゼロスが言った。ゼロスも上は黒いタンクトップ一枚しか着ていない。お互いベッドから抜け出したままの格好だった。
「けどさ、なんだか真夜中のひみつ探検ってかんじで面白いなあ」
街はずれの森の中に足を踏み入れながら俺は妙にうきうきして言った。むかしまだちいさかったころ、夜中こっそりベッドを抜け出して庭を探検してまわったことがある。階段を降りて、家のドアをあける。それだけで、昼間とは違う夜の音のひびきかたにどきどきしたものだ。ぼんやりとしたちょっとつめたい月と星のあかりに照らされる庭の緑だとか、その間に落ちるものすごく深い影だとか、すべてのものがじっと息をひそめてねむるしずけさにずっと胸がどきどきしっぱなしだったのを覚えている。母さんの墓やノイシュの小屋をまわり終え、庭のさらに外・・・森へ目をやって、その色濃い緑の闇とじっとうずくまるたくさんの気配(たぶん獣だとおもう。あとは幼い子供の恐怖心)に怖気づいて俺は家の中へと戻ったのだ。とてもささやかな冒険だったけれど、今でもその記憶はすごく鮮明にのこってる。部屋に戻ろうと家のドアを開けたとたん、親父が仁王立ちで立っていたことも。
「ひみつ探検ってハニー・・・いくつだよ・・・」
ゼロスはむきだしの肩をさすりながら呆れたような声をだした。ゼロスにはないんだろうか、ちいさいころのちいさい冒険。メルトキオのゼロスの屋敷はすごく大きいから、冒険するのも一苦労だろうけど。
「ちいさいころ、やらなかったか?夜中にこっそりベッド抜け出してさ。俺はせいぜい自分ちの庭どまりだったけど、どきどきしてたのしかったぜ」
「探検、ねぇ・・・」
ゼロスが目を細めて眉根を寄せ、口元をゆがめて笑った。
「そうだな、どきどきだけはしたな」
ゼロスが枝でも踏んだのか、ぱきりと乾いた音がした。道も歩きやすい程度に整えられている森の中は街の明かりが届くせいか、夜でも魔物の気配がほとんどない。
「なんだ、やっぱゼロスも探検したんだ」
「ああ、したよ。しかくい箱の中にいるみたいで、急にいやになって屋敷からにげた」
ぱきり。また乾いた音がした。今日はやけに知らない顔を見せるな、ゼロスの横顔を眺めながら思う。
「どきどきしたよ。夜中のメルトキオなんてはじめて見たしな。猥雑で、きたならしくて、繁華街のあかりは目がくらみそうだった。高い塀の深い影には息をひそめたこわいものがたくさんいるって知った」
ゼロスは口元をゆがめたまま愉快だと宣言するみたいに小さく笑った。高い塀の深い影にはこわいものがいる、その意味がよくわからなくて俺は首をかしげた。森の影にひそむ獣のようなものだろうか。
「いろんなものが手招きしてるんだよ」
ゼロスは手招きするまねをしてみせた。こいつの言うことはたまによくわからない。それはこいつの頭がいいからなのか、俺の頭が悪いからなのか、それとももっと他の理由なのか。わかりたいけど、それは難しそうだった。
「おまえの探検は、どうやって終わったんだ?」
高い塀の深い影から手招きするもの。難しいなぞなぞを心にとめながら、俺はゼロスの横顔に聞いてみる。色が白いせいか、月あかりの下で見ると青ざめて見えた。
「ああ、簡単に想像つくからその質問はやめたほうがいいとおもうけどなー」
おもしろくないし、ゼロスは鼻で笑う。
「なんだよ、教えろよ」
妙に青ざめて見えた横顔がふとこちらを向いた。しろっぽい月あかりの中では薄い瞳の色が猛禽類のようにさえざえとひかる。青ざめているのは肌ではなく瞳のほうかもしれない。
「そりゃおまえ、連れ戻されたんだよ。みこさまがいないって大慌てで飛んできた使用人と護衛の連中に」
あおざめた顔はすぐにふいとそらされた。使用人と護衛。ドアのむこうで仁王立ちで俺を見てた親父。夜中に勝手にベッドを抜け出して心配をかけたことに対する叱責を、息子が家の中に戻ってくるまで待っててくれた。俺はあのときの親父の目を覚えてるけど、たぶんゼロスは自分を連れ戻しにきた使用人と護衛のひとたちの目なんて覚えてないんだろうと思った。








3.

「ああ、このへんでいいんじゃないか」
街はずれの森をしばらく歩くと、丁度いい具合にひらけた場所に出た。ここなら、剣の稽古くらいできそうだ。街ともほどよく離れているから、剣のぶつかりあう音を気にすることもない。
「ん、ここにすっか」
作品名:生々しく愛咬 作家名:ぺこ