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生々しく愛咬

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この勝負に終わりはあるのか、ゼロスの肉食獣みたいな目を見上げながら思った。だってゼロスが俺の上からどいたらそれは俺の反撃の機会になる。さっきみたいに。これじゃあ、どっちかが立てなくなるまで終わりが来ないじゃないか。ほんとうに殺し合いのまねごとだ。そう思ったら寒気がした。だけど、もういいよやめようなんて言えなかった。きっと言ってはいけなかった。だから俺は2刀で鍛えた自慢の握力と腕力を総動員して喉にかかるゼロスの両手首を締め上げにかかる。両手の自由がきかなくなり、ゼロスは舌打ちした。ぎらつく目を細めてくっと唇を引き結び、それからいきなり俺の肩口におおいかぶさってくる。
「――-いっ!!!」
がり、という音がした。皮膚をやぶり肉にくいこむ感触。噛み付かれた。ほんとうに獣みたいだ。ノイシュがかまってほしいときにやさしく噛んでくるあんなのじゃなくて、えものを噛み切るみたいな容赦のない攻撃だった。唖然としていると顔をあげたゼロスがにやりと笑う。唇の端に血がついている。もう剣なんて関係なくて、とにかくどっちが勝つかだ。それならまずはどうにかこの体勢を崩さなければ。
上から体重をかけられるぶんゼロスのほうが有利なのだが、それなら力を横にそらせてしまえばいい。とっさに自分の体を横へ転がすようにひねり、ゼロスのタンクトップの胸ぐらをつかんで思い切り横の地面へ引き倒す。勢いのまま上に乗って、お返しとばかりに噛み付いてやった。しかし目の前にあった場所にてきとうに噛み付いたので骨が歯に当たって痛かった。鎖骨にあたったらしい。それでも歯が皮膚をさき肉にくいこむ感触は生々しかった。口の中になまぐさい味がひろがる。いのちの味。
でたらめに抵抗するゼロスの手や足があちこち叩いてきた。応戦するうちにごろごろと地面を転がり上になったり下になったり、噛み付いたり噛み付かれたり、はたから見たら獣の喧嘩にしか見えなかったとおもう。だけど本人たちとしてはひどくまじめに勝負していたのだ。めちゃくちゃにもみあって腕だろうが腹だろうが目の前にある場所に噛み付きあう。お互い、剣士という立場から見てみれば、地面を転がりまわる勝負がいったいなんの勝ち負けをきめるものなんだか理解しがたいのだが。髪をひっぱったりひっかいたり噛み付いたり、子供の喧嘩ですらない獣の次元なのだから。だけれどなんだかすごく楽しかったのはまぎれもない事実だった。おかげでふたりして疲れきってぜーはー息をしながら大の字に並んで転がったとき、お互い体中噛み跡と引っかき傷だらけになっていた。
「なんか、なにしてたんだっけ」
「あーっと、そう、体動かしたら眠くなるんじゃねーってハニーが言ったんだよ」
「おまえねむい?」
首だけ動かして隣の地面に寝転ぶゼロスを見ると、ゼロスは首を横に振った。すっかりぐしゃぐしゃになった赤い髪が地面に擦れる。とっくに土まみれだからいまさらかまわないだろうけど。
「うん、おれもねむくないな」
むしろ余計さめたよどーしてくれんの、ゼロスがわめいた。だけどその土まみれの顔は笑っている。唇の端に血がこびりついているくせに爽快な笑顔をうかべるものだ。
「そーだなあ。それじゃあ、探検でもするか」
俺は勢いよく上半身を起こして、転がったままのゼロスを見下ろして言った。見下ろせばよくわかるが、ゼロスは体中噛み跡だらけだった。タンクトップ姿だったのでむきだしになっている部分すべてに歯跡が見える。暴れたせいでめくれあがったタンクトップの腹や首筋にまで。思わず閉口したが、たぶん自分もこうなってるんだろうなと思うと宿に帰ってみんなに見つかったときどう説明すればいいのかわからなくなった。
「探検って・・・22にもなって?」
ゼロスは腹を出して転がったまま胡乱な顔をした。その様でじゅうぶん「22にもなって」っていえる。
「いいじゃん、探検しよう。どうせもうねむれないって。今度はひとりじゃないけどさ、連れ戻されることだってないし、怖くて行けなかった森の中だってほら、今なら行けるんだぜ」
すごいよな、腹を出して転がっているゼロスを見下ろして俺が言うと、ゼロスはちょっと驚いたみたいな顔をした。もうその目はぎらついていない。
「・・・けどさあロイドくん。俺さまたちこんな格好で出歩いたら変態以外のなにものでもないとおもうよ」
ゼロスも起き上がり、まじまじと俺を上から下まで眺め回して変な顔をした。おまえがやったくせに。
だけどなんとなくゼロスに治癒術で傷を治してもらう気にもなれなかった。ゼロスも治そうとはしなかったので、まあいいんじゃないだろうか。

結局夜が明ける直前までふたりして街をぶらぶらと探検してまわって、それから宿に戻ってドアを開けたら仁王立ちのリフィル先生が待ち構えていたのだった。

作品名:生々しく愛咬 作家名:ぺこ