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異端児

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グリレですが、オリジナル色が物凄く強いです。
名前も緑と赤になっています。
大丈夫そうでしたらどうぞ。



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“あの小屋に近付いてはいけないよ”


それは、この村に住んでいる者であれば言わずともわかる、つまり、暗黙の了解であった。
たった数年前にできたその了解は、今や知らぬは赤子だけ。
実際、この小屋には朝、昼、夕と決まった時間に村の大人が交代で訪れるだけで、自分から好きで近付こうとする者はいなかった。
時折幼子(おさなご)が肝試しと称して小屋へ踏み込むことがあるが、そうした子は全て例外なく真っ青に怯えた顔でそこを飛び出し、母親に縋り付いて、以降小屋を視界に入れることさえも怖がるようになり、中で何があったのかも語ろうとしない。
そんな現状であるから、緑と呼ばれるこの少年も先の了解に従い、傍に寄ることもしなかった。

では何故、今、少年は小屋へと向かっているのか。
恐らくそれを少年自身に尋ねても、明確な答えは返ってこないだろう。
退屈だから、とか、きっとそんなもので、はっきりとした理由はないのだ。
少年はゆっくりと、足取り重く小屋との距離を縮めて行く。
禁忌と言うほどではないし、掟で決められているわけでもないが、やはりこの言い付けのような物を破ることに恐れや後ろめたさがあるのだろう。
それに加え、入っていった周囲の幼子の反応、それが僅かに少年の恐怖心を煽っていることもあった。

小屋の寸前、戸の前に立った時には、緊張からか妙な汗が滲んでいた。
引き返すなら、今のうち。
ここで踵を返せば、この先の恐怖を味わうこともなく、平穏に過ごすことができる。
幼子達の様に、毎夜うなされて眠る必要もなくなるのだ。
しかし、幼子にとっては恐怖であっても、自分にとってはどうということもないものかもしれない。
感じ方というのは人それぞれであるし、他人の恐怖が自分の恐怖に必ずしも繋がるわけではない。
まず、幼子と少年では年齢が違う。幼子が感じる恐怖は大人からすれば大したことがないなんてことはよくあることだ。少年はまだ大人といえる年齢ではないが、幼子といえるような年でもない。故に、感じる恐怖も薄いものであるかもしれないし、あるいは全くと言っていいほど無いかもしれない。
結局は、踏み込んでみなければ結果はわからないのだ。
少年は渇く喉に唾を通した。
恐れがないと言えば、嘘になる。
でも、この戸の向こうに何があるのか、知りたい。
少年の心内では、恐怖よりも、好奇心の方が勝ったらしい。
この選択で後に後悔することになってもいい、自分が選んだことなのだから。
そう覚悟を決め、扉に手をかける。
それから一つ深呼吸をして、少年は、戸を滑らせた。










拍子抜け。

一言でいえば、それだった。
柄にもなく、化け物だとか、そういう異質で根拠のないものを想像していたのだが。
小屋の中には、自分と変わらぬ年頃の少年が一人、座っている。
それだけだったのだ。
恐怖も何もあったものではないと、緑は落胆した。
何故これを見て幼子達が泣いて逃げてきたのか、理解ができない。
その少年は、目を閉じていた。
自分が戸を開けたにも関わらず、それに気付かなかったかのように、微動だにしない。
この小屋の周囲には人気というものはくて静かだから、戸を開く音はしっかりと聞こえたはずだ。
それでも動かないということは、座ったまま寝るという芸当でもやってのけているのか。
背もたれ無しに背筋を伸ばして正座をする、その姿勢のまま寝るなんてことが果たして可能なのか否か。
近付いて確認してやろうかと小屋に一歩踏み込んだ、刹那。



「誰?」



凜、と。
声が響いた。
透き通る、鈴のようなその音色は、目の前の少年から発せられたもの。
緑は思わず足を止めた。
少年が急に声を発して驚いたのもあるが、それよりも、これから先に足を進めてはいけないような、そんな気をなんとなくではあるが感じ取ったからだ。
恐らくそれは、少年の剥き出しになっている警戒心のためであろう。

「俺は、」
「入ってくるってことは、給士の人じゃないね。…また、肝試し?」

緑の言を遮って、少年は云う。
未だ目は閉じたまま。
給士の人、というのは大人達のことを指しているらしい。
確かに大人達は小屋を訪れはするが、中に入っていったのを見たことはない。
なにやら食事を持って行っていると思えば、この少年に支給していたのか。
幼子達の間では化け物への供物ではないかと騒がれていたのだが。

「ただの好奇心なら、今のうちに出て行った方がいいよ」

何故、こんな小屋に隔離されているのだろうか。
少年の忠告は、そう考え込んでいる緑には届かなかった。
自分と同じ年頃の少年。
病による隔離というわけではないだろう、この少年は至って健常であるように見える。肌が通常より白いが、長い間外に出ていないと言うのなら納得ができる範囲だ。
自分の村には定期で祠に贄を捧げるだとかそういうものもないし、あったとしてもその対象は大抵女のはず。
考えても答えは出ない。
…ならば、本人に聞いてしまえばいいのではないか。
それが一番早いと、緑は口を開く。

「なあ、なんでお前こんなとこに、」
「…うっとうしいな、」

しかし緑の問いは聞かずに、少年はまた言を遮った。
うっとうしい、そう紡がれた言葉には多分に怒気が含まれている。

「さっさと出ていってほしいの、わからない?」

ぴくり、と。
閉じられたままの少年の瞼が動いた。
それからゆっくりと、錘でも付いているかのように緩慢に、薄い肌の膜は上げられていく。
そして、開ききったその瞳が、自分の瞳を射貫いた時。
緑は悟った。
鮮烈な、赤の瞳。

異端児である、と。

作品名:異端児 作家名:るう