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異端児

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「…逃げないの?」

しばらくの沈黙の後、少年が先に口を開いた。
恐らく、好奇心で小屋に入った幼子は、この異端の瞳に恐怖を覚えて逃げ出したのだろう。
白い肌に、色の薄い着物、漆黒の髪。
白と黒の中にある赤は、一層際立って見える。
脳裏に焼き付くこの瞳は、確かに幼子にとっては恐怖の対象となりえるし、大人からすれば、…気味の悪い、ものなのだろう。
だから、こんなところに、

「…ねぇ、」

逃げないの?
少年はもう一度問うた。

「……、…なんで、逃げなきゃいけねーんだよ」
「……」

問いに問いを重ねれば、返ってきたのは沈黙。
こんな対応をされたのが初めてなのか、少年は困惑したようだった。

「なんで、って…、怖くないの?」
「別に、」
「…気味悪いって、思わないの?」
「思わない」

少年はまた沈黙した。
どうすればいいかわからない、そんな表情で。



「どうし、て…」

少年は呟く。
先程の凜とした態度が嘘のように、瞳を揺らし、戸惑いの色を見せて。
人々の恐れを成す、その瞳。
それをしっかりと見据えて、緑ははっきりと言った。


「同じだから」


そこで少年は、はっとしたように緑を見直した。
茶の髪に、透き通る翡翠の瞳。
およそこの国で通常では現れない色。

緑も、異端児なのだ。



「…ぁ……、」

力が抜けたのか姿勢を崩した少年に、緑は近付いていく。
今の少年には警戒心というものは皆無で、抵抗もせず、緑が近寄るのをただ見つめるに留まっていた。
同じ異端であるのに緑が自由なのは、緑の両親が村で比較的高い地位にあるからだ。
しかし、自由であるとは言え、やはり周囲の目は冷たかった。
同年代の者には避けられ、年下には怯えられ、大人には気味悪がられ。
緑はいつも一人で、その痛みを知っている。
だからこそ、この少年を放ってはおけないと、そう思った。
少年の目の前まで来ると、緑も座って視線を合わせた。
す、と手を伸ばせば、少年は怯えたように肩を震わせ、目を閉じる。
緑が物心ついたころからこの小屋のいわれはあった、つまり、少年もそのころには隔離されてしまっていたことになる。
だから、人に触れられることに慣れていないのだろう。
緑は少年を刺激しないように、そっと頬に触れた。
恐る恐る開かれた目に、柔らかく笑いかける。

「俺の名前、目と同じで緑って言うんだけど、お前は?」

少年はゆるゆると首を振った。
名前も与えられないままにここで過ごすことを余儀なくされていたらしい。
それならば、と、緑は言う。

「…赤、ってどうだ?目、綺麗な色してるしさ」
「……きれい?」

聞き返した少年に、緑ははっきりと頷いて見せた。
率直で、素直な感想だった。
少年の赤の瞳から、透明な雫が一粒滑り落ちる。
今まで蔑まれてきたこの瞳を、今、生まれて初めて、“綺麗”だと。
肯定、された。

「…赤?」
「だめか?」

少年はまた首を振った。
それから流れた雫を乱雑に拭って、緑を見据えて。

「うれし、い…っ」

そう言った後、堰を切ったように赤の瞳からは涙が溢れた。
嗚咽を繰り返す赤を、緑は頬に添えたままだった手で引き寄せる。
そのままの勢いで肩に顔を押し付けて泣き続ける赤の背を撫でてやりながら、緑は思う。
やはりあの態度は虚勢だったのだと。
ああやって自分を押し殺さないと、寂しさに潰されてしまうのだ。
自分にもそんな時期があったと、少し懐かしくなる。
しかし、もうそうやって自分を偽ることはしなくていいのだ。赤も、それから自分も。
もう、お互い、一人ではない。
寂しさを感じる必要はないのだと、そう伝えるように、緑は自分に縋り付いて泣きじゃくる赤を、優しく抱きしめてやった。







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一応補足。
緑11歳の赤10歳
幼子基準は5~7歳くらい

緑の両親は赤の扱いに反対していて、助けてやりたいと思っていた
緑が小屋に近付かなかったのは両親に言われたからじゃなくて、周りがそうしてたから。
このあと赤は無事に緑の家に養子として引き取られます。めでたしー。
作品名:異端児 作家名:るう