山月記パロ
そう手を振って、臨也は歩き出した。山道はここまで閑散としていただろうか。色あせていただろうか。行きと全く違う風景に、臨也の視界が霞む。背後からがさがさと何かが動く音がした。
しばらく歩いたところで、振り返る。丘の上には一匹の虎がいた。もう白く光を失った朝方の月を見上げて、幾度か咆哮した後、また草むらに消えた。そしてもう二度と姿は見せなかった。
消える姿を目にして、臨也は、誰にも見せたことのないような顔をして呟いた。その言葉の真意も、登りゆく朝日の光で潰れて消える。「喰われても、良かったのに」あとに残ったのは寂寞だけだった。