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銀色が滲むほど

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麗かな昼下がり。マルコは手元にある、例によって暴れすぎたエースの報告書とは名ばかりの始末書の束をぱらと捲った。シャブが御法度の白ひげのシマで、あろう事かその取引を行った命知らずなファミリーの取引現場に粛清の意味を含めてエースを行かせた、それはいい。エースも多大な責任を負う幹部の一角を任されているだけあって冷静な判断力も行動力もある。だが如何せんやりすぎる。限度の上限は超えずにいるとは言え、取引現場の廃墟と化していた建物は倒壊、敵ファミリー構成員は生存者なしの上その車は多数炎上。生存者がいないのは別に構わないが、その後始末の書類はどこに来ると思っているのかと、怒りで顔を引き攣らせたマルコに青い顔で始末書書きますと叫びながら逃げ去っていったのが昨日の昼、そして纏めた報告書並びに始末書を抱えてエースがマルコを尋ねたのが今日の昼だった。全く元気が有り余ってるってのも悩みもんだとマルコは溜息を吐く。
そのエースと言えば、渡された書類の不備が無いか確認するマルコを待つ間に、ローテーブルを挟んだ向かいのソファでさっさと寝こけていた。左半身がずり落ち気味で、寝返りを打ったと同時にソファから落ちてテーブルか床に強かに頭なり何なりを打ちつけることだろうと容易に想像がつく。
苦笑して、視線を下げたマルコの意識は更に反れた。
うつ伏せたエースの床に垂れ下がった左手首には銀製のバングルがある。マルコが二十歳の誕生日に幹部昇格を祝って贈ったものだ。そういえば、泣きそうな顔で笑ってやがったなとマルコは思い返した。あの頃はまだ到底エースの想いなど知り得なかったが、一抹の不安のようなものが胸に去来したことが記憶に古くない。
エースは中身を確認すると暫く放心してそれを見つめていた。なんだ気に入らなかったかいと聞いたマルコに慌てて首を振り、そうしてくしゃりと雀斑の散った顔を歪めた。泣くのだろうかと内心狼狽えたマルコの心配は杞憂に終り、エースは恐る恐ると言っても過言ではない仕草でそれを取り出すとやはり泣きそうな笑顔で左手首に嵌めた。キラキラと光を弾くそれを顔前に掲げ、あんたの目に凄ェ映えるだろうなぁと謝辞と捉えるにはおよそ突拍子の無い表し方をした。意味を図りかねるマルコを置き去りにして、エースは何か神聖な儀式のようにそのマルコの贈り物に唇を落とした。
ぎくりと身体が強張ったのを憶えている。エースの瞳に垣間見えた赤熱の炎が、マルコにその所作を単なる謝礼で済ますことを良しとさせなかった。奇妙な違和感が脳裏を掠めたが、深い思慮の淵へマルコが落ちる前にその炎は漆黒に瞬く双眸の奥へと消えて行った。ありがとう、大事にするよと囁くように告げたエースの声音が震えているような気がして、見返す双眸は乾いていたのにやはり泣きそうだという矛盾した感想を抱いた。
あの後、マルコの心の内を鳴らした警鐘の音が遠く忘れ去られるほどに、エースは何も変わらなかった。だがマルコはエースの左手首で銀色が煌くたびに、あの瞬間の要領を得ない焦燥が水泡のように湧いては弾けていく感覚を幾度となく繰り返し感じることとなった。
いくら愛しい青年のこととはいえ、諸々の事象を苦く感じてしまうのは仕方ないことだった。そう遠くもない当時を思ってマルコが自嘲しかけた時、向かいのソファで盛大にエースが転がり落ちた。
注いでいた視線を手元の書類に戻しながら、眠っていても騒がしいガキだとマルコは軽く息を吐く。
エースがいてぇと呻き、強かに打ちつけたらしい肘を摩り頭を軽く振って起き上がる。
「いつ寝たか覚えてねぇよ」
「お前の場合ほとんどがそんな感じだろい」
エースがマルコを振り向いて笑う。
「こればっかりはなぁ、どうしようもねぇよ」
「だろうなァ…」
もっとガキの頃からそうだったからなと、視線を落としたままマルコが言う。一度白ひげの屋敷でそれは大騒ぎを起こした事のあるエースが、眉を下げ弱ったように苦笑しているだろうことが手に取るように分かってマルコは口元を緩める。あの時、エースの癖をただ一人知っていたマルコがちょうど一時場を離れ、戻ったら右往左往の大騒ぎに何事かと目を丸くしたものだ。
懐かしむように目を細めるマルコに気を取り直したのか、エースは立ち上がってマルコの側へと回りこみ、片膝でソファに乗り上げて書類の束を覗き込む。
「まだ終わんねーの?」
せっつくような物言いにマルコは眉間に皺を寄せた。
「誰のせいで休日までこんなもんに目ェ通す破目になってると思ってんだい」
「悪かったよ、ごめん」
申し訳なさそうに瞬く双眸に見つめられ、マルコはまた溜息を吐いた。
「もう終わるよい。ちょっと待ってな」
うんと頷き、エースはマルコが最後にサインするのを見届けると、それをテーブルに放り出した。元から期限は明日の書類だ。そうしてエースはマルコの膝に跨ると、催促するように顔中に口付ける。エースがいつに無い速さで書類を仕上げてきた目的の大半はこれだったらしい。マルコに抱かれるようになって、マルコが手に入るのだと理解してからのエースはマルコに対して遠慮をしなくなった。欲しいと思えば恥じらいもなく寧ろ楽しげにマルコを誘い、そして言われるままよく啼いた。若い身体は覚えが良く、マルコに仕込まれたエースは今や娼婦の真似事をもこなすだろう。もちろん、マルコはそれを他の男に教える機会など作ってやるつもりはない。
「昼間っから盛ってんじゃねぇよい」
マルコはくつくつと笑いながらエースの腰を引き寄せる。
「だってあんたおっさんだからなぁ、あんたが勃たなくなる前に散々ヤっとかねぇと」
面倒な書類の束からマルコが解放されて機嫌よくエースは笑い、なんなら俺が上でもいいぜ?と言いたい放題言って至極楽しそうにマルコの首に腕を回した。マルコの米神が軽く引き攣る。
「へえ?お前さんが俺を抱くのかい」
「別に俺は不満なんてねェしあんたは十分エロいけど、ちょっと興味湧くだろ?」
「…そうかい、」
ならヤらしてやってもいいよい、とマルコが言うとエースは目をいっぱいに開いて驚いた。自分から言い出して置きながら予想もしていなかったらしい、そんな顔をしてる内はまだまだガキだとマルコは内心で苦笑する。
「ただし、」
そう言い置いて、マルコは膝に乗ったエースのベルトのバックルごと引っ掴んでソファに引き倒した。
うおっと声をあげマルコの首筋に縋りついたエースのぱちくりと瞬く双眸を見下ろし、にやりと片方の唇をつり上げる。
「終わった頃にお前の腰が使いもんになるならな」
俺はまだ枯れるつもりはねェよいと、性的な仕草でエースの頬を撫でてマルコは呟いた。げ、とエースが顔色を変え、静止の意味を込めてマルコの肩に手を伸ばすが、その手が役目を果たす前にマルコはエースの唇を割った。
作品名:銀色が滲むほど 作家名:ao