銀色が滲むほど
強引に差し込んだ舌には直ぐにエースのそれが絡みついた。角度を変え幾度も唾液を交わすたび口端から吐息が溢れる。息を継ぐ合間に、エースがあんたしつけぇんだよ、と漏らした。それは先刻のマルコの物言いに対するものだろう、マルコはいつもノリノリで応えてんじゃねェかと笑い、エースのベルトを引き抜いた。下着越しにも緩く反応した熱が伝わり、エースの身体が微かに跳ねる。若ェなァとマルコは思い、ゆるゆると刺激してやるだけでそれは瞬く間に硬度を持ち始める。エースはじれったそうに身動ぎ、首に回していた腕を解いてマルコのシャツの釦を毟り取る勢いで外すと、露にした肌に掌を滑らせ満足そうに喉を鳴らした。エースの足が引き寄せるようにマルコの腰に絡まる。マルコが唇を解いて見下ろすと、濡れ羽色の瞳が色情を湛えて揺れていた。惑い寄せるようにゆったりと笑うエースの双眸には確りとマルコを捕らえた炎が翻り、それは手管に長けた柔らかな娼婦達よりもよほどマルコを誘引して離さない。腰を浮かせ猛った熱を摺り寄せながら、エースはマルコの喉元や顎に舌を這わせて早くと囁いた。マルコはこのエロガキがと吐き捨てると、エースのシャツを剥ぎ取りその首筋に噛み付いた。
熱が侵食する。エースの迸る灼熱が触れた部分からマルコを侵していく。脳味噌が煮立つほど、芯から欲を引き摺り出されてマルコは舌打ちした。
初めてエースを抱いた夜、そこにはマルコの情愛とエースの揺れる恋情と、それからマルコを絡み取ろうとエースの双眸に灯る炎しかなかった。エースを抱くことに最早迷いはなかったが、全てを捧げた情愛の内側でそれでも多少の遣り切れなさが滲むのはどうしようもない。マルコはエースを手放す気はなかった、だが変貌していくだろう二人の関係を思うと、見るはずも無かった青年の婀娜めいていく表情や姿態が、マルコの芯に沸々と熱を呼び込んでいく様が確かに恐ろしくもあった。
今もそれは変わらずマルコの内に存在した。だが当初を思うと、それはエースに気取られぬほど霞んでマルコすらもう気にかけることが無くなってきている。それが良い事なのかそうでないのか、判断しかねたがマルコはそれを意図的に意識の隅に押し遣るほどに、どれほど成長しようと己の目には可愛いく映る青年に絆されていた。
エースがマルコの下で甲高い悲鳴を上げる。押し寄せる快楽の波から逃げを打つ腰を掴んで更に深く捻じ込む。意味を成さない言葉達がエースの口端から氾濫して、それはマルコの唇に拾われた。エースがマルコのシャツの襟元をくしゃくしゃに握り締めて喘ぐ。反らされた喉を甘噛みし舌を這わせ、マルコは蠢動する肉壁に眉を寄せて一層奥を穿った。エースの内奥がマルコを捻じ切らんばかりに締め上げる。身体の中心を駆け上っていった白熱が網膜を焼き、一瞬の絶頂感の後身体は弛緩した。ぐったりと荒い呼吸を繰り返すエースの瞳は余韻に潤んで虚空を漂っている。顔に張り付いた癖毛をかき上げてやり、朱に染まった目元や頬に唇で触れるとエースは擽ったそうに笑った。
マルコ、と呼び、愛してる、と囁く。この青年が素直に愛おしいと思う。
絡み合わせた掌を引き寄せ手首に光る煌きにマルコは唇を寄せた。
エースが瞠目し、目尻に溜まっていた涙が零れ落ちていく。エースの熱に溶かされて銀色がきらりと泣いた。
今はもう、忘れ去られた警鐘の音は響かない。