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【腐向け】しょんぼりするおっさんと菊さんのほのぼの【土日】

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――こりゃあ、なんだってんでぃ――
その一言が今のサディク・アドナンの世界を表現するに一番適した言葉であった。
その言葉を螺旋状に頭で繰り返しているとサディクの顔の僅か数センチ程の距離に湯呑みが飛んでくる。反射的に構えた右手にパスンと湯呑みが収まると「お見事!」という一言が返ってきた。
その声の主がこの家の主でないことに眉間に皺を寄せながらも、キャッチした湯呑みを声の主に渡すと声の主は苦笑しながら湯呑みを受け取った。
「おっさんさぁ、あからさまに嫌な顔すんのやめてくんない?さすがにお兄さん傷ついちゃう」
傷つくと言った割りには悪びれる様子はなく、馴れ馴れしく肩を組んでくる相手に「しっしっ」と手振りを付けながら「そんなことより」と切り出す。
「この状況は一体なんだってんでぃ?」
「ん〜アーサーとアルフレッドが取っ組み合いのケンカしてて王がちょっかいかけてる感じかな。あ、取っ組み合いのケンカって言うか、坊っちゃんのはいつものヒステリーみたいなもんだけど。いつもは割りとスルーしてんのに今日は珍しくアルフレッドが答えちゃうから……あーあー白熱してんなぁ……あ、ちなみにコレ投げたのは便乗した王ね」
廊下から茶の間を見通しながら見たまんまの出来事を言うと、フランシス・ボヌフォワはヒラヒラと湯呑みを振りながら笑う。
「もうひとつちなみに、菊ちゃんはお着替え中だよ。みんなが急に来るもんだから相当びっくりしてたな」
最後の一言はそれまでの笑顔と種類が違うように見えたのは気のせいではなかっただろう。
「そうかいそりゃあた…」
大変なところに邪魔したな、と繋ごうとしたところにこの家の主が廊下の奥から現れるのを見つけて言葉を止める。「よお」と右手を挙げたところで様子がおかしいことに気づいた。
「サディクさん…あなたとの約束は明日の筈ではありませんでしたか?」
玄関先まで来たところで本田菊の発した言葉は笑顔に乗せられていたが、その笑顔がいつもの笑顔ではないことはすぐに分かった。
体感温度がすぅっと下がるのを感じながらも仮面の下に笑顔を作って口を開く。
「いやぁ、一日多く休日が取れたもんでな、驚かそうと思って」
「それは結構でしたね」
「へぇ、おっさんも意外とかわいいとこあるじゃないの。なぁ」
同じく冷たい空気を感じているのだろう。フランシスが場を和ませようと発した言葉に菊が一層の笑顔を作る。
「それはそうとフランシスさん、まだ作業は終わってないんですよ?油を売るのも程ほどにしてくださいな」
……笑顔が怖い……目の前の男の顔色が自分のつけている仮面よりも白く変化していくのを観察しながら心の中で呟く。
「悪いところに邪魔ぁしちまったようだな、出直して…」
出直してくらぁ…と言おうとして『あ』の形に口を作る。その行動と同時に、本田の後頭部めがけて茶の間方面から何かかが飛んで来る。それが座布団であると認識した時には本田の後頭部は大きく揺れ、サディクはその顔に『ぴきり』と青筋が立つのを目撃した。
――ゴクリ――思わず飲み込んだ生唾の音が聞こえたのか、もしくは同じタイミングで生唾飲んだのか、フランシスと目が合う。二人同時に座布団へ視線をやり、その後に俯いたまま固まっているこの家の主へと視線を動かした。
花紺の和服がカタカタと揺れる。笑っているのではないことは今までの経緯で十分理解できる。
下を向いていた顔がゆっくりと正面へと動く。その表情は、種類としてはやはり笑顔なのだろうが、その笑顔にサディクとフランシスの背筋に冷たい何かが滑り落ちた。
「サディクさんは縁側にでもおいでになってお待ちくださいな。フランシスさんは部屋に戻って作業の続きをする!」
早口で捲くし立てられた二人はこくこくと頷いて、サディクは縁側に、フランシスは作業部屋へと移動する。
「あなたたちいい加減にしなさいっ!」とこの家に珍しい叫び声が響くのはそれから数十秒後のことである。


ぷかりと浮かべた煙はすうっと青空に溶けていく。
吸い差しのタバコをもう一口と運んで吸い込む。ひゅうっと上空に見えたのは鳶だろうか。
あの後、「お引取りくださいな」の一言で一連の騒ぎの収拾をつけた当の主はパンパンと手を叩いた後、ぴしゃりと玄関を閉めて、縁側にお茶を持ってきた。
「その…悪かったな…あ、俺で手伝えることがあったら何でも言ってくれ」
無言で差し出されたお茶にそう答えて相手を見ると、相手はすぐに踵を返して「考えておきます」とだけ残した。
完全にタイミングが悪かった……と心に呟いて、吸い込んだ煙を吐き出すとその煙はあっという間に風にかき消される。
「はぁ…」
音として認識できるくらいの大きいため息をついて灰皿に灰を落としてタバコをもみ消すと、ずずっと冷めたお茶を口に運ぶ。
「今日のお茶は苦ぇな」
元々、甘党の彼の舌にいつもの味のはずのお茶の苦味が深く深く染み渡った。
「くうん」
どこから現れたのか、この家の飼い犬がいつの間にか膝元に擦り寄ってくる。
「おお、ポチいたのかぃ」
サディクの言葉に「くうん」と返事をしてポチは膝によじ登ろうとする。サディクはそれを手助けしながら、ずずっと音を立ててもう一口お茶をすすった。
「……やっぱ苦ぇ…なぁ、ポチよぉ。今日はなんだってお前のご主人はあんななんでぃ…」
サディクのその言葉に心なしか困った表情を浮かべた犬は「くうん」と鼻を鳴らした。


夕方5時を告げる鐘が聞こえてきて、いつのまにか転寝をしていたサディクが目を覚ますと同時に、隣に寝ていたポチが「たったったったっ」と音を立ててまたどこかに走り去っていった。
夕方と言えどもまだ日が高く、暗くなるには時間がありそうだ。そんなことを感じながら、起きぬけのタバコを吸おうと胸ポケットに手を伸ばすと、奥のほうから襖の開く音がする。
「いやぁ…なんとか間に合ったね」
「ええ、今回もお世話になりました」
そんな会話に聞き耳を立てていると、足音がこちらに向ってくる。
「今日はゆっくりお食事でもって思っていたのですが…」
「うん。それもいいだけどね。もうお兄さんへとへとだからさぁ、早いところ家に帰って慣れたベッドで横になりたい〜ってのが本音なんだ」
「実にすみません…」
「謝るなって。また今度、何かで恩返しはしてもらうつもりなんだからさ」
そんな会話と足音は玄関先に消えて、暫くした後に玄関の開く音と閉まる音が聞こえた。
それから一人分の足音がこちらに向ってくるのが聞こえて、サディクは慌ててタバコに火をつけた。
おそらくこの家に二人きり……妙な緊張感が走る。
「サディクさん」
「おっ…おう」
呼ばれて振り返ると柔らかい笑み。昼間の冷たい笑顔とは明らかに違う表情にサディクはほっとしながら煙を吐き出すと、菊が空になった湯呑みに視線を向ける。
「あ…お茶、淹れなおしてきます」
「いや…お茶はもういい。今日はもういい」
反射的にそう答えたサディクに不思議そうな顔をしつつ「そうですか…」と菊は答えてサディクの隣に座った。
「今日はとっても大変だったんですよ」
ぽつりと呟いた菊にサディクは頷いて答えると菊は続ける。