僕はきみしかいらない
正臣は思案げに僕を見上げていたが、にいと笑ったかと思うと勢いよく立ち上がり僕の左手を握った。僕より5センチしか変わらないのに真横に立たれるとやっぱり少し見上げる形になってしまって、それがちょっとだけ悔しい。
「さーあ、次はどこに行こうか!」
「ちょッ・・僕の話、聞いてた?!」
僕の手を掴んだまま歩き始める正臣の背中に慌てて声を掛ける。歩みに合わせて正臣の少し長めの横髪が揺れている。耳のピアスがまたひとつ増えたなと気が付いた。
その斜めから見る正臣の横顔は僕がたぶん一番知っている正臣の表情で、ひどく安心感があって、だから僕も(まあ、いいか)なんて流されてしまいそうになる。正臣なら、いいか。なんて。本当に呆れるくらい僕はこんな風に正臣に手を引っ張られてきたらしい。
だけど、別に逃げたりなんかしないのだから手を繋ぐ必要なんてないよね。
引きずられつつも意見する僕に、正臣は振り返らず答える。
「だって、誰かに連れて行かれちゃったら困るだろ」
作品名:僕はきみしかいらない 作家名:けい