二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

サンズ ア ワード

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
 報告はいくつかあった。
 元を辿れば、大学生が自ら組織的に薬を売りさばいていた現場に出くわしたことからだ。その大学生が口にした言葉『ダラーズ』、彼らが真似たというその組織が粟楠会幹部会議で正式に取り上げられたとき、赤林が担当者として名乗り出たのは自然なことだった。その大学生を捕まえたのは自分だし、なにより薬物関係と聞いて黙っていられるわけはない。その自由がきくからここにいるのだ。

 調べれば調べる程、気にかかることは多かった。特に創設者竜ヶ峰帝人については、もはや公私ともに無視できない存在だ。
 今内部で小競り合いをしているのなら、こちらはまだ手を出すべきではないと思っていた。麻薬組織とダラーズの直接的な繋がりもまだ見えていない。ダラーズについても竜ヶ峰帝人についても、今、積極的に手出しする必要性をまだ感じていなかった。しかし、その報告の中に、彼女の名前が出てきたことで、彼の心境は一変する。
 園原杏里、今はなき彼の初恋相手の一人娘。彼女と竜ヶ峰帝人との間に友人以上の繋がりがあると聞いて、彼の心中は穏やかではなかった。それまでの人生の分、杏里には日常を生きて欲しかった。こんな自分が後見人に近い立場にいるのだ、必要以上に彼女の世間体は気になった。不自由してはいないか、出来るなら友人と楽しく穏やかな、普通の高校生として過ごしてほしかった。それを妨げるような存在は自ら排することすらできるつもりだ。もちろん彼女の迷惑にならない範囲で。赤林が考えていたのはおおむねこんな所だった。

 ダラーズと、もっと言えば創始者竜ヶ峰帝人と売人達との間に組織的な繋がりはあるのか、もしないとしても竜ヶ峰帝人自身は杏里の友人たる人間なのか。赤林は自分の感情が非常にエゴやら自分主義やらにおかされていることも知っていた。それでも、彼はどうしてもその問題の結論をそれ以上待つことは出来なかった。
 実際に自分の目で見て判断しない限り、部下の報告だけでその問題を納得できるとは思わなかった。
 少し前に2年ぶりに会った彼女に、偶然を装って再度出くわすのは容易だ。ついでというように竜ヶ峰が一緒にいるところを狙う。
「最近よく会うねぇ」
 赤林は少し首をかしげ柔和な笑みを浮かべる。もはやこの手のことは慣れすぎて、白々しいとすら思わない。こちらの職業柄、杏里にはなるべく会わないようにしていたが、彼女が巻き込まれる可能性もあるのだ。これ以上放ってはいられない。
 見知った姿に、少し驚いた表情の杏里も、
「赤林さん」
 と、頭を下げかすかに笑う。
 その笑みが2年前よりもずっと柔らかい表情なのを見て、少し安心した赤林は隣の少年に目を向ける。少し訝しげな表情でこちらを見つめていた少年は、こちらと目が合うと、慌てたように表情を取り繕い、軽く会釈する。取り繕った自分を自覚しているのだろう、僅かにその耳が赤い。こうしてみると、本当にただの高校生だ。身長こそ標準だが、全体的に細身で、袖から覗く手首や華奢な指を見るだけで分かる。最低でも彼は戦闘とか、そういうものが得意ではない。もちろんダラーズのリーダーだからといってそういうものに秀でていけないという訳ではないが、見れば見る程、目の前にいる少年はどこにでも良そうな風貌だ。むしろ気の弱そうに見えるその仕草は、カツアゲやらの対象になっていても違和感ない。
「えっと、」
 目の前の男性に見覚えがないのを、帝人は助けを求めるように杏里に目を向ける。色眼鏡にスーツの下には派手な色のシャツ、足は悪くないであろうはずなのに杖をつくその人物に、途惑いを隠せないらしい帝人に、杏里は穏やかな表情のまま、
「赤林さんです」
「どうもよろしく」
 杏里は自覚しているのかいないのか、全く説明になっていない紹介に、赤林が帝人に向けて顎を少し引いて挨拶する。杏里はそんな赤林に視線を移して、
「えっと、竜ヶ峰君は同じクラスで、仲良くして貰っていて、」
 歯切れの悪い杏里の紹介を気にした風もなく、赤林は、うなづくと
「杏里ちゃんにもそんな相手が出来るとはねぇ」
 と、冗談めかして言う。
「いえ、そういうんじゃなくて」
 困った様に首を振る杏里の横で、複雑な表情を浮かべている帝人に、赤林は微笑ましいような気持ちにすらなりつつ、こんな日常を絵にしたような少年がしかしその見た目通りではないのだと言うことに、むなしさすら感じる。
 カラーギャングなんて、やくざ同様ろくなものではない。しかも彼はそのリーダーだ、聞けば自身が率先して暴力行為に及んでいる事もあるらしい。そんな彼の事を、おそらく杏里は何も知らないのだとろうと、杏里と竜ヶ峰の様子から赤林は推測する。
「そうかい、んじゃおいちゃんは邪魔にならないうちに退散するかね、それじゃね」
 最後に帝人の方にも視線をやって、赤林はもと来た道へと戻る。路地を曲がれば、待たせていた車が丁度よく入ってくる。それに乗り込んで、赤林は行き先を告げる。滑らかに滑り出した車は、そのまま事前に調査済みだった竜ヶ峰帝人の自宅へ。



 本来ならその日、赤林が影に車を待機させて、身ひとつでそのアパート前でどれだけ待とうと、そこに帝人は現れないはずだった。帝人は正臣との一件以来ネカフェ暮らしを続けており、赤林と出会った日もそのままネカフェに直行するつもりだった。ただ杏里との帰り道、彼女が読みたがっている本がちょうど自宅の押し入れにある事を知った帝人は、どうせならと、郵便物や部屋の様子見がてら家に寄ろうと考えた。
 万が一のことも考えて、アパートの前の人影には気をつけていたが、待ち伏せという事にかけては素人の帝人よりも慣れきっている赤林の方が何倍も上手だった。自分の外見は、見る人が見ればあからさますぎている。立場上そういうものを警戒しなくてはいけない竜ヶ峰が、快く自分を招き入れるとは思えない。
 結果的に、一階の郵便受けを覗きこんで、たまっていた郵便物を取り出していた帝人は、逃げ場をふさがれるようにして、赤林に声をかけられることになった。
「また会ったねぇ」
 耳に残る調子の声が、横から聞こえて、突然の声に帝人は顔だけゆっくりとそちらを見やる。先ほど会ったばかりの人物が何故そこいるのか、心当たりがありすぎて、確定できないが、その雰囲気が良くないものであることだけは分かる。白々しい言葉をそのままに、
「ちょっと、話したいことがあってね」
 と、赤林は笑みを浮かべたままつつける。その言葉に、先ほどの口調との違いを帝人は感じていた。少しだけ、堅くて冷たい。口調だけを見れば飄々としたおじさんの様にも感じられるのに、有無を言わせない強引さがあった。
「なんですか?」
 握った郵便物をくしゃりとつぶして、帝人は郵便物のたまったままの郵便受けを閉める。体ごとその人に向き直って、威圧される。自分の横に背後に2階への階段があるだけで、左右は家の壁と塀。目の前には長身。逃げ場はないように感じた。
「まぁここじゃなんだから」
作品名:サンズ ア ワード 作家名:よしだ