二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

「おやすみの歌」書いてみた。

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
「おやすみの歌」書いてみた。



朝食の後、リビングを出ようとして、ふと足を止めた。
父のつけたテレビで、最近人気の出てきたピアニストが、インタビューを受けている。
小柄な彼女の隣に、背の高い、青い髪の男性が立っていた。

・・・・・・?

何処か見覚えのある顔。青い髪、青い目。青いマフラー、白いコート。

「あ・・・VOCALOID」

やっと思い出して、思わず口に出す。

そうだ。
彼女が、青い髪の男性VOCALOIDと一緒に連弾している姿を、ニュースで見たことがあった。

「今時は、VOCALOIDをパートナーに選ぶのが、当たり前になってきたな」

父の言葉に、僕は曖昧に頷いた。

VOCALOIDは、歌う為のアンドロイド。
人と違って、コンディションが狂うことはない。
入力された音を、言葉を、正確に再現する楽器。

テレビの中で、ピアニストがVOCALOIDとともにピアノの前に座り、連弾を始めた。
「ほう」と、父が感心したような声を出す。

「上手いもんだ。VOCALOIDでも、教えればピアノを弾けるんだな」

・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・僕なら、もっと上手く弾けるのに。

「いってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてね」

苛々した気分を無理矢理追いやって、母に声を掛けると、僕は学校に向かった。



「あ、ミクだ」

学校からの帰り道。友人の声に、示された方を向けば、そこには、男の人と、緑色の髪をした女の子が歩いている。

「ミク・・・ミクって、VOCALOIDだっけ?」
「そうそう。すげーな、俺、生で見るの初めてだ」

僕も、実際に見るのは初めてだ。

「すごいね。本物の人間みたい」
「いいなー。俺もミク欲しいけど、とてもじゃないけど、アンドロイド型は無理だー」

ミクは、隣の男の人と、何か話している。
笑った顔は、どう見ても人間そのものだ。

「あの人が、マスターなのかな?」
「ん?ああ、だろうな」

ということは、あの人が、ミクを歌わせるのだろうか。
まるで、人間のように。

「ミク可愛いなー。欲しいなー。あんな子に、傍にいてほしいなー」
「ふーん」

友人は、僕の顔を覗き込むと、

「あれ?お前、ミクに興味ないの?ひょっとして、メイコ派?」
「僕は、別に」
「えー、お前、年上が趣味なのかよ?」
「だから、そういうことじゃ」
「へー、意外だなー。あ、でも、俺も、メイコの乳には、惹かれるものがあるな」

勝手に納得している友人に、何を言っても無駄だろうと、曖昧に頷く。


ミクとかメイコが問題なんじゃなくて。
VOCALOID自体に、興味がない。

欲しいとも思わない。

僕の方が、上手に弾けるから・・・。






鍵盤の上に指を走らせ、思い描く音を探る。


ここは、柔らかく響かせて。

音を途切れさせず、流れるように。

ここで転調。

弾むように。一つ一つの音を、はっきりと。


・・・・・・・・。


「ん・・・違ったかな?」
僕は手を止めると、ピアノの前を離れる。
ヘッドホンをつけ、リモコンを操作すると、耳元に流れるピアノの音。

ああ、大丈夫。
間違っていない。

ほっと胸をなでおろすと、もう一度ピアノの前に座った。
聞いたばかりの音色を思い返し、鍵盤に指を置く。

今度こそ、間違えないように。




ノックの音に顔を上げると、母が立っていた。

「お茶を入れたから、少し休憩しない?」
「あ、うん。ありがとう」

僕は立ち上がり、母からお盆を受け取ろうとしたが、

「いいから。もしひっくり返して、火傷でもしたら、大変でしょう?」

そう言って、母は、お盆をローテーブルに置く。

「・・・はい」

湯気の立った紅茶とチョコレートが、一人分。

「・・・母さんも、一緒にどう?」

僕の言葉に、母は、笑いながら首を振って、

「お母さん、出かけなくちゃいけないから。留守番、よろしくね」

・・・・・・・・・・。

「はい」
「練習、頑張ってね。コンクールはもうすぐだし、あなたなら優勝できるって、お母さん、信じてるから」
「・・・はい」

母が出て行った後、僕は、ヘッドホンをつける。

もう一度、聞きなおそう。
もっと、完璧な演奏ができるように。

もっと上を目指して。

もっと。

もっと。





何時からか、聞いたことのない曲は、弾けなくなっていた。
一度でも聞けば、それを手本にすることができる。

けれど、知らない曲は、弾けない。


ピアノを習い始めた頃、先生から、「この子は耳がいい」と褒められた。
それを聞いた父と母は、大袈裟なくらい喜んでくれて。

そんな両親を見て、とても嬉しかった。

コンクールで上位にいけば、両親は喜んでくれる。

僕には、それが嬉しかった。


だから、もっと上を。


ミスのない演奏を。

豊かな表現力を。


もっと上を。

もっと。

もっと。





コンクール当日。

大勢の聴衆よりも。

審査委員よりも。

観客席にいる母の視線が、気になった。


ミスをしてはいけない。

演奏は完璧でなければいけない。

コンクールで優勝することが、両親の望み。


だから、誰よりも完璧に。





「今度こそ、大丈夫だと思ったんだけど。一体、何がいけなかったのかしら?」

母が溜め息をつく度に、息が苦しくなる。

「こんな結果、お父さんに報告できないわね。本当に楽しみにしていたのに」
「・・・ごめんなさい」

それしか言えなかった。
何を言っても、母は聞いていないのだから。

「急なお仕事で、来れなくなったのは、不幸中の幸いだったわね。お父さんがいたら、大変な騒ぎだったわよ」
「・・・ごめんなさい。次は、頑張ります」

母は、盛大な溜め息をつくと、

「お母さん、その言葉は、聞き飽きたわ」
「・・・・・・・・・」


結果は、二位。
審査員の間でも、評価が分かれたのだと、ピアノの先生がこっそり教えてくれた。

『今回は惜しかったけれど、君の実力は本物だから。今回は、不運だっただけだよ』

そんな言葉は、聞きたくない。
優勝出来なければ、意味がないのだから。




家に戻り、すぐピアノに向かう。


何がいけなかったのだろう?
ミスはなかった。

表現力?完璧だったはずなのに。

完璧に、再現したはずなのに。


足りない。

何が足りない?

とにかく、上を。

もっと上を。





コンクールから数日後。

何時ものように練習をしていたら、母が入ってきて、父が呼んでいると言われた。
リビングに行くと、父がソファーに座って、手招きしている。
僕が、父の前に立つと、いきなり、

「お前の為に、VOCALOIDを注文したから」

・・・・・・・・・え?

「そいつにピアノを教えて、連弾でコンクールに出なさい。お前には、連弾が向いているだろうと、先生も仰っていた」

・・・・・・・・・。

「分かったな?」
「・・・はい」

僕が頷くと、父は満足げに、

「それだけだ。では、練習に戻りなさい」
「はい」

僕がリビングを出ようとすると、後ろから父の声がした。