寂しい色の君へ
彼が真備を追いかけるとわかっていたという気持ちもあったのかもしれない。
だけど、ただ何も言えなかっただけなのかもしれない。
「でも、昔を振り返っても少しは笑えるようになれましたから」
諸兄はやさしく、袖を掴んでいた私の手を離した。触れたその手がとても冷たかった。
そう言って恐れずに私と向き合った諸兄の目に、もうあの陰は見えなかった。
意図的に隠したのかすっかり消えたのか、わからないけれど。
私はその目を見て、やっと笑いかけることができた。
「だから俺は、大丈夫です」
今は、その言葉を信じようと思った。静かに笑った諸兄を信じたいと思った。
彼を救ってくれるのが、明るい未来を携えた子どもなのか、優しい過去を抱いた神様なのか。
私にはわからないし、私ができることもやっぱり無いことを理解した。
悔しかったけれど仕方ないと言い聞かせて涙をこらえる。
けれど結局泣いてしまったのは、諸兄が穏やかに笑ったせいだと思う。
冷たい風が吹く。日差しは柔らかくあたりを照らしている。
子どもは今日、旅立った。時期が来れば彼はそれを追いかける。
置いていかれたのはおそらく私なのだと、気付いた。
(だからあんたは、寂しがる必要なんてない)