【APH】無題ドキュメントⅧ
「お前が俺を愛してくれればくれるだけ、俺は強くなれる。お前の為に何だってしてやれる」
その言葉に感じたものは、一瞬の恐怖と恍惚。…あのとき、感じたもの。
漠然とした形の見えなかった不安が、形になっていく。
おれが愛すれば、愛するだけ、この兄は身を削っていく。
愛する兄の血肉を喰らい、自分は成長していく。
そして、最終的にはその身のすべてを、自分はいつか喰らい尽くしてしまうだろう。
食われた者は、どうなる?
…いなくなる。消えてしまう。
それを、望んでいるのか…。この兄は…。
「…違う。おれは…」
そんなことは望んでいない。望んでいないのだ。
「ルッツ?」
唇を噛んで黙り込んだ子どもを不思議そうな顔をして、プロイセンは見つめる。…ああ、このひとは未だにあの大王を愛し、その大王が自分を置いていなくなったことを辛く思ってる。置いていかれた者のなら、その悲しみを知っているくせに、それを解っていないのだ。忘れてしまっているのだ。残される者の悲しみを。…何て、残酷なひとなんだろう。…子どもは視線を上げ、プロイセンを見つめた。
誰が、あなたを手放したりするものか。愛しきおれの騎士よ。あなたはおれに忠誠を誓うと言った。…だから、おれを見てくれ。ここにいるおれを愛してくれ。この先も未来永劫ずっと。この身がいつか朽ち果てるときにあなたも一緒に果ててくれたらいい。
「あなたを愛してる。…だから、おれはあなたの背中を守れるようになりたい」
…役に立ちたい…それでは駄目だ。この兄を守れるようにならなくてはならない。その為にはこの兄に肩を並べられるまでに、大きくならなければ…。それにプロイセンは驚いたように、目を見開き、子どもを見つめた。
「…ハッ、それはいい!そうなれよ、ルッツ!!」
歓喜に満ちた声を上げたプロイセンに不意にきつく抱き締められ、子どもは息を止める。
…守られているばかりでは駄目だ。急いで、大きくならなければ。このひとをこの世界に引き止めておける力を手にいれなければ。
子どもはプロイセンの背中に腕を回す。
『おれは今度は迷わない。守るためにこの世界のすべてを手に入れる』
そんな子どもに小さな誰かが、
『ローマになっちゃ、だめだよ!!』
と、囁く。
作品名:【APH】無題ドキュメントⅧ 作家名:冬故