Good Old Fashioned* 6/27新刊サンプル
トロくさい人生だって、ずっとそう思っていた。
けど、捨てたもんじゃないぞとも思っていた。
そんな静雄の人生に、ついに最悪の日がやってきた。
「そ、それ!どこで買ったんスかっ?」
サングラスの下で目をひん剥いて静雄は叫んだ。
「ああ?これのことか?」
これ、と、トムは手に持ったシェーキの紙カップを掲げてみせる。
「そうですそうです!それってロッテリアのシェーキですよね?」
しかもバニラ味、と静雄は大声を上げた。
静雄とトム、ふたりが会話しているのは、例のごとく池袋の雑踏。
年がら年中、あふれる人間でにぎわっている街中だ。
人の波を縫うように、静雄はトムに近付いた。彼の目は、
しかし、トムの顔なんかひとつも見ちゃいない。
食い入るような静雄の視線の先にあるものは、
ロッテリアのロゴ入りのシェーキのカップ。
「たしかにこれはバニラ味のシェーキだが、それが?」
どうした、と問い返すトムの声は、バカでかい静雄の声に
瞬時にかき消される。
「トムさん!それって普通に店で買ったんですよねっ?」
その時には既に静雄は、トムと向き合っていた。
シェーキのカップを持つトムの手が、ムンずとばかりに大きな手につかまれる。
「み、店で買う以外他に手はねえだろ」
妙な具合にコーフンする後輩に圧倒されて、珍しくトムも
タジタジになっている。
もちろん奢ってもらうっていうのもアリだがな、と小さくつぶやく声なんか
静雄の耳には入っちゃいない。
「あの店ですか?」
静雄は言って、通りの向こうのおなじみの店構えを睨みつけた。
「このヘンでロッテリアっつったら、あれっきゃねえだろーが」
「買ったのは今、ですかっ?」
「今――つーか、二、三分前ってとこか?」
「クソったれがっ……!」
静雄は毒づき、やっとトムから手をはなした。
よくもまあ折れんかったな、と腫れ上がった自分の腕をおそるおそる眺めながら、
トムはホっと胸をなでおろす。
彼は、キリキリしながらロッテリアの店頭を睨みつける後輩に目を向けた。
「何かあったんか?」
あの店で?と、トムは目で店を示しながら、
「何かあったとしても、店を壊すのだけはやめとけよ」
と小声で付け加えた。
「店がブっ壊れたら、シェーキも当分飲めなくなっちまうからな」
「店がブっ壊れなくても、シェーキなら当分飲めませんよ」
憮然とした顔で静雄はつぶやいた。
まるまる一軒、店を破壊できるんじゃないかといった眼力で、
ロッテリアの店構えを睨みつけながら。
時間は、今から五分ほど前のこと。
場所は、サンシャイン通りの入り口の交差点を渡ったロッテリア。
雑多な店が軒を並べる通りの中に、静雄の行きつけの店がいくつかある。
ここ、ロッテリアもその中のひとつで、更に言えば、五本の指に入る、
静雄のお気に入りの店でもある。
サービスデーには、一日に二度も足を運んでしまうほどだ。
今日は、待ちに待ったシェーキのサービスデー。
今日という日を指折り数えて待ちわびていた静雄だったから、
チラシ広告にくっついていた割引券をはさみで丁寧に切り取って、
そそくさと持参していた。
それがなんと、このありさま――。
わくわくしながら列に並び、大人しく順番を待ったというのに。
静雄を待ち受けていたのは、とんでもなく不幸な出来事だった。
けど、捨てたもんじゃないぞとも思っていた。
そんな静雄の人生に、ついに最悪の日がやってきた。
「そ、それ!どこで買ったんスかっ?」
サングラスの下で目をひん剥いて静雄は叫んだ。
「ああ?これのことか?」
これ、と、トムは手に持ったシェーキの紙カップを掲げてみせる。
「そうですそうです!それってロッテリアのシェーキですよね?」
しかもバニラ味、と静雄は大声を上げた。
静雄とトム、ふたりが会話しているのは、例のごとく池袋の雑踏。
年がら年中、あふれる人間でにぎわっている街中だ。
人の波を縫うように、静雄はトムに近付いた。彼の目は、
しかし、トムの顔なんかひとつも見ちゃいない。
食い入るような静雄の視線の先にあるものは、
ロッテリアのロゴ入りのシェーキのカップ。
「たしかにこれはバニラ味のシェーキだが、それが?」
どうした、と問い返すトムの声は、バカでかい静雄の声に
瞬時にかき消される。
「トムさん!それって普通に店で買ったんですよねっ?」
その時には既に静雄は、トムと向き合っていた。
シェーキのカップを持つトムの手が、ムンずとばかりに大きな手につかまれる。
「み、店で買う以外他に手はねえだろ」
妙な具合にコーフンする後輩に圧倒されて、珍しくトムも
タジタジになっている。
もちろん奢ってもらうっていうのもアリだがな、と小さくつぶやく声なんか
静雄の耳には入っちゃいない。
「あの店ですか?」
静雄は言って、通りの向こうのおなじみの店構えを睨みつけた。
「このヘンでロッテリアっつったら、あれっきゃねえだろーが」
「買ったのは今、ですかっ?」
「今――つーか、二、三分前ってとこか?」
「クソったれがっ……!」
静雄は毒づき、やっとトムから手をはなした。
よくもまあ折れんかったな、と腫れ上がった自分の腕をおそるおそる眺めながら、
トムはホっと胸をなでおろす。
彼は、キリキリしながらロッテリアの店頭を睨みつける後輩に目を向けた。
「何かあったんか?」
あの店で?と、トムは目で店を示しながら、
「何かあったとしても、店を壊すのだけはやめとけよ」
と小声で付け加えた。
「店がブっ壊れたら、シェーキも当分飲めなくなっちまうからな」
「店がブっ壊れなくても、シェーキなら当分飲めませんよ」
憮然とした顔で静雄はつぶやいた。
まるまる一軒、店を破壊できるんじゃないかといった眼力で、
ロッテリアの店構えを睨みつけながら。
時間は、今から五分ほど前のこと。
場所は、サンシャイン通りの入り口の交差点を渡ったロッテリア。
雑多な店が軒を並べる通りの中に、静雄の行きつけの店がいくつかある。
ここ、ロッテリアもその中のひとつで、更に言えば、五本の指に入る、
静雄のお気に入りの店でもある。
サービスデーには、一日に二度も足を運んでしまうほどだ。
今日は、待ちに待ったシェーキのサービスデー。
今日という日を指折り数えて待ちわびていた静雄だったから、
チラシ広告にくっついていた割引券をはさみで丁寧に切り取って、
そそくさと持参していた。
それがなんと、このありさま――。
わくわくしながら列に並び、大人しく順番を待ったというのに。
静雄を待ち受けていたのは、とんでもなく不幸な出来事だった。