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平和島幽×臨也

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 臨也の細くて白い指と、幽の少し大きい綺麗な指が絡まったまま、アクセルが踏み込まれた。幽は優しげな表情で広いシートの上で膝を抱えて顔を埋めてしまった臨也を少しだけ見つめると前を向いた。

(可愛い……な)

 この人を独り占めできるなんて、なんて幸せなんだろう。池袋では嫌われ者らしいけれど、それは臨也の可憐な本質を知らないからだ。愚か極まりないことである。
 しかしそれを知っているのが、最も長い時間を過ごしているにも関わらず殺し合いしか出来なかった兄の静雄ではなく、あまり接点の無かった弟の幽なのである。随分と皮肉なことだ。
 臨也は嫌われ者、幽はそう思っているが密やかなる想いを臨也に寄せている人間は少なくない。
 だが本人はそんな周りの気持ちなど露知らず、思いのままに趣味の情報屋を営みながら卑怯で汚いことをあっけらかんとやってみせる。皆、騙されているのだ。
 どう見ても臨也は嫌われるべき人間で、付き合ったとしても一目見た女が惚れ込み後に遊ばれ別れるように、利用されて捨てられてしまう可能性があるのだと誰もが思うだろう。そんな可能性に皆騙されているのだ。
 折原臨也が恋愛にどれだけ疎いか知らないから。誰も知らない、兄すらも知らないことを自分だけが知っているなんて。ああ、いい気分だ。

「幽くん」

「……はい」

 思考に半分使っていて遅れた返事に相手は気づかない。臨也は淡い微笑みを浮かべて正面を見ながら言った。

「次に休みが出来たら、その時はシズちゃんに会いに行かなきゃダメだよ」

「君は弟なんだし、ちゃんと顔みせてあげて」

「俺と出かけてたなんて知ったら君まで殴り殺されるかもしれないからね」

 はは、と爽やかな苦笑だ。
 臨也は優しい。暇を見つけては訪ねてくる幽を絶えず気遣う。年上だからというだけではなく、貴重な休みを使ってくれる幽に罪悪感も感じているのではなかろうか。

「……兄貴は俺を殴ったりしません」

「そうだろうね、でも俺は」

「殴らせたりしません」

 嫌われてるからね、という臨也の言葉を遮って幽は言い切った。うさぎの様に紅い目をぱちぱちさせながら臨也は驚愕する。こうしてはっきりと幽から言われる言葉に色々な意味を含んでいて驚いているのだ。

「ありがとう」

「……。いえ」

 饒舌な臨也が珍しく何も言い返すことなく、あまつさえ素直に礼をのべてきた。それでも幽にとっては当たり前で、しかし池袋の人間が見たら気味悪がるだろうが。

 兄の静雄は、他人から見ると臨也を憎悪しているようだが、知人から見ればあからさまに好意を寄せているように見えるらしい。
 毎度出会い頭に暴力と罵倒をもって挨拶しているので本人に伝わることは皆無なのだが。本人は本心から静雄の事を快く思っていないが、幽の前ではあまり悪く言わないようだった。
 幽の本心には二人の関係について、二つの意見がぐるぐるまわっている。一つは二人が少しでも仲良くなれば、というより臨也が静雄に気を許してくれればいいのに、というもの。



 もう一つは、このままであってほしい、二人の仲がこのまま変わらなければいいのに、というもの。これを思い出すたびに兄への罪悪感と浅ましく醜い自分への嫌悪感が込み上げる。それでも、臨也への独占欲の方がどうしても強く濃く。

「?」

 臨也が訝しそうにこちらを見つめていた、ハンドルを握る手に柔らかな手が今にも伸ばされそうだ。

「あのさ」

「はい」

 ぽつり。小さく澄んだ声が響いた。

「俺、幽くんとこうして居れるだけで充分楽しいよ」

 何を気遣ったのか微笑んでそう言った臨也の表情は、困ったような風が写っていて。幽の表情が読めないから、というのではなく自分と居る事に不満を感じているのでは、と少し思い詰めた様子だった。
 そんな顔をさせたかった訳ではない。幽は、臨也と同じ時間を過ごすことに至福を感じているのだから、不満に思うわけがないのだ。

「……臨也さん」

「うん?」

 再び、渋滞になりそうな交差点で赤信号だ。ビルとビルの隙間を縫うように伸びる白昼でも人気の少ない脇道に車を走らせる。車が十台入る程度の駐車場、回りには閉めきった窓をつけたビルの壁と数台の車だけだ。
 落ち着いて話ができる今ならばと呼べば幽の言葉を待つだけの無防備な折原臨也の「素顔」がそこにはあった。
 何も構えていない薄い肩を掴み引き寄せると、時たま成人かと疑うそのあどけない顔に、なめらかでふっくらと色づく唇に、幽は口付けた。

「!……!?」

 音もなく重ねられただけの口付けに臨也の紅い瞳が見開かれた。縁取る長い睫毛の規則正しい整列が、この人は美しいとはっきり表している。
 兄を差し置いてでもこの人を手放したくないと、手に入れたいと、そう思ってしまうのは仕方のないことなのだ。なぜなら誰よりも自分に屈託なく接する折原臨也というひとを、自分は、好いているから。

「か、すか、く」

 唇が離れるとはくはくと吐息を溢しながら臨也が戸惑う。顔が真っ赤なのを見つめ、幽は久しぶりにくすりと唇に笑みを浮かべた。

「好きなんです」

 言われた臨也は目的地が遠くなるのをはっきり感じ取った上で、そんな、ずるい、と呟くと再び降ってくる唇を受け止めるためくしゃりと顔を歪め目を閉じた。
 そんな顔もやっぱりきれいな貴方が、

「好きです」

作品名:平和島幽×臨也 作家名:rrr