赤
目を開くと、赤、赤、赤。
目を閉じても、赤、赤、赤。
あまりにも強すぎるその赤色は目蓋の裏側からもたやすく侵入して、視神経を刺激する。
いつも見ている赤とは違う、みんなから好かれる赤。
嫌な匂いも、手も汚れない、美しいと誉めたたえられる、そんな赤。
「ねえ。フリッピー。綺麗でしょ」
僕は曖昧に頷く。目の前に広がっている、紅葉、と呼ばれる葉っぱの群れにただただ言葉を失うばかり。
「立ってばかりじゃ疲れるよ。こっちに座りなよ」
後ろでフレイキーが楽しそうに言った。僕は振り向く。にっこりと自然な笑顔がそこにあり、僕もそれに応じる。赤。赤。
黄色と、緑、茶色、橙、黄土、金、それと、たくさんの赤。葉っぱのくせにこんなにたくさん色があるなんて。空を見上げると、わずかに青い空がぽつりと浮かんでいる。僕たちを囲むように背の高い木々が空に向かって伸びている。色取り取りの風景が僕たちを染めてゆく。
風が吹くと、それこそそこらじゅうが葉っぱだらけ。帽子を飛ばされないように押えて、赤い葉っぱがくるくると回って散っていくのをただ見つめる。赤が、広がる。
ここにはフレイキーが連れてきてくれた。朝起きると、珍しく呼び鈴が押されたので外に出ると彼女がいた。照れくさそうに笑って、バスケットをこちらに向けて差し出した。僕がぽかんとしていると、急に不安そうな顔になって絞り出すようにつぶやいた。
「あの、ね。ピクニックに、行かないか、な、って。今日は、いい天気、だから……」
秋晴れ。快晴。空はどこまでも青い。からからに乾いた風が吹き抜けて僕の耳をわずかに揺らした。フレイキーから僕を遊びに誘うなんて初めてのことだったので、少し驚きながらも途端に嬉しくてたまらなくなり駄目な訳ないだろ、と慌てて準備した。
「誰も知らない場所だと思う」
目の前に座ってるフレイキーがはにかむ。風が強くて、彼女のフケが舞ってゆく。
「この村はこんなに狭いのに」
「でもね。みんな決まったところでしか遊ばないから」
僕が呟くとフレイキーは笑いながらリンゴを差し出した。真赤。
「私は、よくここに来たけど」
「ひとりで?」
恥ずかしそうにこくりと頷く。彼女の手がナイフをつかみ、自分の分のリンゴの皮をくるくると器用に剥き始める。ナイフに映るその赤に、わずかに体の毛が逆立つけれど大したものではない。
目を閉じても、赤、赤、赤。
あまりにも強すぎるその赤色は目蓋の裏側からもたやすく侵入して、視神経を刺激する。
いつも見ている赤とは違う、みんなから好かれる赤。
嫌な匂いも、手も汚れない、美しいと誉めたたえられる、そんな赤。
「ねえ。フリッピー。綺麗でしょ」
僕は曖昧に頷く。目の前に広がっている、紅葉、と呼ばれる葉っぱの群れにただただ言葉を失うばかり。
「立ってばかりじゃ疲れるよ。こっちに座りなよ」
後ろでフレイキーが楽しそうに言った。僕は振り向く。にっこりと自然な笑顔がそこにあり、僕もそれに応じる。赤。赤。
黄色と、緑、茶色、橙、黄土、金、それと、たくさんの赤。葉っぱのくせにこんなにたくさん色があるなんて。空を見上げると、わずかに青い空がぽつりと浮かんでいる。僕たちを囲むように背の高い木々が空に向かって伸びている。色取り取りの風景が僕たちを染めてゆく。
風が吹くと、それこそそこらじゅうが葉っぱだらけ。帽子を飛ばされないように押えて、赤い葉っぱがくるくると回って散っていくのをただ見つめる。赤が、広がる。
ここにはフレイキーが連れてきてくれた。朝起きると、珍しく呼び鈴が押されたので外に出ると彼女がいた。照れくさそうに笑って、バスケットをこちらに向けて差し出した。僕がぽかんとしていると、急に不安そうな顔になって絞り出すようにつぶやいた。
「あの、ね。ピクニックに、行かないか、な、って。今日は、いい天気、だから……」
秋晴れ。快晴。空はどこまでも青い。からからに乾いた風が吹き抜けて僕の耳をわずかに揺らした。フレイキーから僕を遊びに誘うなんて初めてのことだったので、少し驚きながらも途端に嬉しくてたまらなくなり駄目な訳ないだろ、と慌てて準備した。
「誰も知らない場所だと思う」
目の前に座ってるフレイキーがはにかむ。風が強くて、彼女のフケが舞ってゆく。
「この村はこんなに狭いのに」
「でもね。みんな決まったところでしか遊ばないから」
僕が呟くとフレイキーは笑いながらリンゴを差し出した。真赤。
「私は、よくここに来たけど」
「ひとりで?」
恥ずかしそうにこくりと頷く。彼女の手がナイフをつかみ、自分の分のリンゴの皮をくるくると器用に剥き始める。ナイフに映るその赤に、わずかに体の毛が逆立つけれど大したものではない。