赤
「おままごととかね。やってたんだ」
ふうんと僕はあたりをぐるりと見回す。ちょっとした広場のようになっていて、子供が一人で遊ぶには広すぎるスペースだと思う。周りの木々がうまい具合に重なり合って、外からは見つかりにくい、まるで秘密基地のよう。
「ギグルスたちに入れてもらえばいいじゃないか」
リンゴにがぶりと噛みついて僕は言った。すると、フレイキーの顔がくしゃりと歪んだので、何かまずいことでも言ってしまったのだろうかと心配になる。
「……でもね、ここは見つかりにくい場所だから」
さっきの質問には答えず、フレイキーはナイフをぱちんと折りたたんだ。うさぎの形にカットされたそれを口に放り込みながら持参のバスケットを開けた。チョコチップのクッキーだよ、はいどうぞ。
クッキーを食べながら考える。
もし、あの戦場の舞台がこのように、元から真っ赤だったら。
そしたら。
みんな、死なずにすんだかもしれない。
いや、景色が元から赤いと敵の判別もさらに難しくなるだろうけれど、それ以上に敵からの目くらましにもなるはず。あんな馬鹿げた戦争から、逃げだすこともできたかもしれない。
…なんて、その考えはできすぎだろうと、自分で自分を苦笑する。
ひらひらと落ち葉が舞ってきて耳の上に落っこちる。それを拾って太陽に透かして見る。葉脈がまるで僕たちの血管のように広がっている。それはまるで手のようで。
ふと後ろを振り返ると、目を疑うほど、葉っぱが舞い散っている。風が強くて、木々が枝を揺らす。また葉っぱが落ちてくる。くるくるくると回りだす。
掌の中にある真っ赤なその、小さな手を見つめてみた。それはなんだか僕に向かって助けを求めるているようで、急に不快な気持になり、僕はそれを払い落した。
赤い手。黄色い手。金色。緑。茶色。
手が、
それはそれはたくさん。
「フレイキー」
はっと僕は気付いて葉っぱの嵐を抜け出した。ぞわぞわとした想像を振り払う。ピクニックシートの上には誰もいない。先ほど握っていた葉っぱを思い出した。冷汗がつっと、背中をたどる。まさか、まさかね。
「フレイキー」
そう呼びかけて僕は思いだす。
なんだ。フレイキーなら、ちょっとそこまでと言って、散歩しているんじゃないか。忘れてるなんて、駄目だね。僕は。不安が解消されて、顔の表情が和らぐ。