赤
ぱたぱたと走り抜けてひょいと、顔を木の間から覗かせる。目を凝らして、凝らしてようやく見つける。赤と金と赤と黄色と赤の間に赤い子供。ぽつりとひとり。ひとりで歌を歌っている。安堵の息を吐く。
「フレイキー」
すると彼女も僕に気付いて手を振った。目を閉じると周りの風景に溶けてしまいそう。あっという間にいなくなってしまう。僕の大切な友達。
友達?
そう、友達。
赤い世界の中のあの子は目を離すとすぐに溶けていなくなってしまう。もう誰も傍から離れてほしくないから僕はあの子のもとに駆け寄ってぎゅっと抱きしめたくてたまらない。だけど、もしそうしたらあの子は途端に僕に怯えて、あっという間にいなくなってしまうだろう。
僕は真っ赤なあの子に笑いかける。真っ赤なあの子が僕に笑いかけてくれるのを感じながら。僕の中に流れてる真っ赤な血がぶるぶると震える。それを握りつぶす。
「フレイキー」
あの子は首をかしげてこちらを見た。どうしたの、フリッピー。
君はもう、ここで一人で遊ばなくてもいいんだよ。
だからさ、僕ももう一人でいなくていいんだよね。
君がいるから、僕はもう一人ではないんだよね。
言えない言葉を胸に抱いて、僕はフレイキーに微笑んだ。ああどうか、大切なこの子だけは殺さないでください、と僕は僕にお願いする。頭を地面にこすりつけて泣き叫ぶように懇願する。どうか、あの子を殺さないでください。もしもの場合は、僕を殺してもかまわないと。それが僕を守ることになるのだから。
風が吹き抜けて、気づくと目の前にフレイキーがいた。
「ね。フリッピー。そろそろ帰ろうか」
暖かくて小さなその手は、確かに真っ赤だけれど、とくとくと伝わる小さな鼓動が、生きていることを証明してくれている。その証明が僕にとって何事にも代えがたい大きなものであるということは別として、僕はその小さな手をぎゅっと握り返す。
僕たちは、もう、ひとりではないね。