放浪カモメはどこまでも
ピピピピピ・・・ピコン
「ガッチャ! 面白いデュエルだったぜ」
「バカな・・・!」
ビシ、といつものポーズを決めた十代と対照的に、万丈目は呆然と膝を付いた。
「へへーん、オレの勝ち! さぁ~て、約束だよな?」
ツキも完全に十代の味方らしい。ありえない速攻で勝負を決めた十代は、いつもの全開の笑みを浮かべた。
・・・その前に、何でそこまで拘るか、コレに!
「えー、…だってよ。・・・オレ嬉しかったんだぜ、お前と同寮になって、さ」
う。
「お前は不本意かもしんないけどさ。ここにいる時しか着れないだろ、これ」
上機嫌にトコトコ近付いてくる十代から、万丈目はよろりと一歩身を引いた。あまりの邪気のなさっぷりに目眩がする。
たじろぐ(というかおののく)万丈目の目の前で、十代は、ん、とジャケット入りの袋を差し出してくる。
よく判らない勢いに負けて思わず受け取ってしまった。
「同じ寮の仲間ってカンジ、するじゃん。そーゆーのも悪くないなーって」
それに
「先生も『ペアルックなのにゃ~』って」
ベチ。
「あー!何すんだよー!」
「生徒も生徒なら教師も教師かぁあああー!」
力一杯ジャケットを地面に叩き付けたが、十代は己の吐いた台詞の意味にまったく気付いてないらしい。無邪気恐るべし。危うくノセられる所だった。
というかどういう育ち方をしてるんだこいつは。
あのオトボケ猫教師・・・!
ギリギリと歯を噛み締めながら寮の方へ目をやると、慌てて扉を閉めるような音がいくつもあがった。
・・・どいつもこいつも・・・って。
「止めろキサマ!」
「えー? いーじゃん、男に二言はないんだろ?」
「オレサマは着るとは言ってない!袖を引っ張るな!」
「今更恥ずかしがる事ないだろー?」
「お前は何処までが素だぁああー!」
「・・・何か台詞だけ聞いてると微妙な会話なんだナー・・・」
先程の万丈目の一睨みで扉を閉めてしまった為、どうなっているのかは、会話からしか窺えない。
ていうかまるで痴話ゲン・・・。
そんな大人な単語が隼人の頭を過ぎった。
「ボクという者がありながらアニキったら…!」
え。
何か、今聞こ、聞こえ・・・。
「・・・・・・。」
「どしたの?」
不思議そうに、くるくるした大きな目で見上げてくる翔は素だ。どこまでも。
・・・オレは何にも聞かなかったんだナ。
前田隼人、十六歳。
引き籠もり率が微妙に引き上げられた瞬間だった。
「だ か ら、脱がせようとするなー!」
はた迷惑な公開痴話喧嘩は三十分ほど続いたらしい。
元オベリスクブルーのエリート、青い稲妻・万丈目 準。
彼がこの後朱に交わってしまったかどうか、真偽を知るものはいない。
一部を除いて。
どのみちそのうち噂が駆け回る事になるし。
我らがサンダーの行く末に幸あれ。
End
作品名:放浪カモメはどこまでも 作家名:みとなんこ@紺