放浪カモメはどこまでも
「・・・あれ?」
コンマ1秒以下で鼻先で閉まった扉の前で十代はコキュ、と首を傾げた。
もう一度ドアをノック。
反応なし。
再度トライ。今度は家主も呼んでみる。
「おーい? 万丈目~」
「万丈目サン、だ!」
よし。
既に脊椎反射と化しているやり取りの後、今度は閉められないようにドアノブをしっかりGET。
「何しに来たキサマ…!」
「大徳寺先生から制服預かってきたん だ よ !」
ぐぎぎぎ・・・とドア一枚越しに仁義なき戦いを繰り広げながら、十代が腕に掛けてる袋に目をやると、確かに見えるのはオシリスレッドの赤いジャケット。
確認と同時にモーレツな何かがこみ上げてきた。
「いらん! どうせオレは即オベリスクブルーに戻る。そんなものは必要ない!」
「だって校則だろ。いーのかよそんな事言って」
「オレサマは優秀だから多少の事は許される!」
「いーから着ろよ、これ!」
「い・ら・ん!」
一方その頃。
「…制服渡しに行っただけなのに何でそこまでもめるかなぁ…」
「まぁあの2人ナンだし、思った通りなんだナー…」
「でもそろそろ消灯時間過ぎそうだし、ご近所迷惑だよね~」
そう思っても、止めに行くつもりのないのが2人、鈴なりになって少し開けた扉の隙間から隣の様子を窺っている。
お隣さんも動く気配がするし、寮中に聞こえているんだろう、この騒ぎ。
でも関わっている人物が人物だけに、誰も積極的に止めに出てこようとはしない。
「・・・そろそろかな」
ポソリ、と翔は小さく呟いた。
「じゃデュエルでオレが勝ったら着替えるってことで」
来た。
「何処で繋がるんだ、それは! オレはそんなもの着ないと言ったら着ない!」
「え~、ケチ~。いーじゃん少しくらいさ~」
「何でもそれで済まそうとするなー!」
更にエキサイトの気配を見せる隣の気配を扉越しに伺いながら、2人はゆるーい笑みを浮かべた。
「・・・この場合、サンダーの言う事のがもっともなんだナー」
「でもアニキに対しては今更だよねー…」
というかこのアカデミアにいる限り、無理だから、その辺につっこむの。残念。
「何だよ、お前が勝ったら一つだけ言う事聞いてやるって。あ、でも退学とかはナシだかんな」
「勝手に話を進めるな!」
「何だよ、ノリ悪ぃなあ。いーじゃん、やろうぜ、デュエル!」
「…キサマ目的が違ってきてないか?」
当たり。
胡乱気な声の通り、盛大に眉間に皺を寄せた万丈目に向けて、十代はキラキラ目を輝かせつつ、言い放った。
「この間思いついたコンボ、実戦で使えるか試したくってさー」
ぷち。
「・・・このオレサマを実験台にしようとは良い度胸だ…返り討ちにしてやる! 表へ出ろ、遊城十代!」
「いや、お前が出て来いよ」
オレ、元々外にいるし。
「あーあ…カンペキにアニキのペースにのせられてる・・・」
「あゆトコ凄いんだな、十代…」
OKが出た途端、怒濤の勢いでデュエルディスクを取りに来た十代(の開けた扉)に、逃げる間もなく殴打された鼻をさすりつつ、2人はそれぞれに呟いた。
「言い出したら聞かないのになぁ・・・」
「サンダーには悪いんだが早く決着付けた方が楽になると思うんだナ」
というか、すでに見えてるけど、結果。
ああなった十代を止められるとすれば、アカデミアの皇帝、カイザーこと丸藤亮(でもきっと兄さんは止めない)か、三沢(彼も意外と止めない)くらいか。
どのみちどちらもいない。
2人は万丈目の行く末を思い、ちょっとだけ同情の溜め息をついた。
作品名:放浪カモメはどこまでも 作家名:みとなんこ@紺