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My love for your lion heart

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愛すべきRに捧ぐ

Guten Tag , セントラルはどうですか.
そちらの夜は冷えるようですね.
俺は今更ですが , 貴方の言葉の意味を考えています.
義手と義足の調子は順調です.
戦いの証をお大事に , Lieben Sie Sie.

1923 ミュンヘン E.E

*** *** ***

洋燈が不完全燃焼を起こした臭いが部屋中を包んでいるのでそのあまりの臭いに顔を顰めるしかない。また火を熾したまま寝るなんて! どうも僕の忠告は聞いてもらえない節がある。
長いエドワードの髪の毛は不恰好に机に張り付いた所為か寝癖として奇妙に曲がりくねっている。髪が柔らかすぎるのだろう。この寝癖はきっと取るのに時間が掛かってエドワードの機嫌を損ねるに違いない。
錠つきの窓を丁寧な仕草で開けると白鳩の飛び立つ音と共にグレイシアの声色がした。彼女は今日も美しい。(流れるような口紅のラインが印象的だ)
小さな呻き声と同時にエドワードの活動が再開される。低血圧なのか、それともこの薄汚れた空の所為か、どうも彼の顔色は冴えない。軽くこすった右目に、昨夜手につけたままのインクが黒く線を引かせる。もちろんエドワードはこのことに気付きはしない。
「、ハイデリヒ」
「はい、エドワードさん。また手紙を書いていたんですね、ランプをつけたまま寝るのはよして下さいと何度も言っているのに」
エドワードが躊躇うように自分の名を呼ぶのに幻滅する。少し困った風を装って笑った後、エドワードの背中にさりげなく手を掛けた。軽く背骨を触る。自分より一つ年上とは思えないほどの細い身体つきに驚かされる。
エドワードは僕の腕を掴んで引き寄せるとそのまま立ち上がって離した。離れていったエドの温もりが瞬時に消えてゆく。二三度背伸びやら屈伸やらをした後、書き終わっているであろう手紙は握りつぶされ掠れた色のズボンへ隠れていった。
気まずそうに隠された手紙の中に書かれているRとLieben Sie Sie.を忘れたことはない。
(貴方を愛しています、なんて)僕には一生囁かれることはないのだろう。Rと言う人物を羨ましく感じる。ねえ、R。どうです。僕と入れ替わってみませんか。永遠にエドワードさんには触れられない僕と。(それとも貴方は笑いますか。ふん、無能だ、などと部下の口癖を真似て)
「ハひデリヒ、めひ」
エドワードは細いリボンを取り出して口にくわえ、器用に長い髪を束ねた。寝癖はそのままだがいいのだろう。どうせ外出する当てなどないのだから。
「その前に顔を洗ってきて下さい。インクの擦った跡が右目の下に素敵な化粧を残していますよ」
慌てたようにぺたぺたとエドワードは顔を擦る。本物の手と義手とで肌に触ったときの音が微妙に違うのが曇った空の現実だった。
「・・・温かい紅茶をご用意しておきます」

*** *** ***

「はじめまして、アルフォンス・ハイデリヒです」
はじめて会ったときのエドワードは、まるで成長期がそのまま何処かへ消えてしまったかのように背が低く、当時から身長の高かった僕を大いに困らせた。考えた末、少し屈んで紳士のように腕を差し出した。エドワードは何か含む様に笑いを堪えている。それに疑問のように眉を下げると、彼は申し訳なさげに、タイ、とだけ言った。何のことか困っているとホーエンハイム氏が遠慮がちにタイが右に40℃曲がっていると指摘してくれた。そのとたん、エドワードは溢れんばかりの笑いを零したのだ。細い金髪の線が静電気で立っているのだけが目に飛び込む。窓の光で透けて消えてしまいそうな金髪は氏に似たのだろう。恐ろしく美しかった。
「睫毛、長いですね」
僕はもう次の瞬間にはこの心に広がる甘く切ない気持ちを理解していた。間違った道だと思っていても、抵抗はない。僕は、エドワードに恋をした。(この日を一生忘れることはないだろう!)
「エドワード・エルリックだ」
握り返した腕は弱弱しく、白い。また、少しの違和感を覚えた。それがすぐ表情に出てしまっていたのだろう。エドワードは笑って、義手と義足を使っていると補足した。

エドワードは実に愉快だった。彼は何でもないように、自分と父(僕はそのとき初めてホーエンハイム氏とエドワードが親子であることを知る)はもうひとつの別の世界から飛んできたのだと言った。そこにはこちらの世界とそっくりの人間たちが他の生活を送っているのだという。まるでおとぎ話のような、機械ではなく錬金術が発達した世界 ──── ・・
彼の語るもうひとつの世界、アメストリスには僕と同い年の弟、アルフォンス(!)が存在していて、かつて鎧だったアルとの旅路をエドワードは頻繁に口にした。事の始まりは自分と弟が錬金術最大の禁忌である人体練成で母を練成しようとしたこと、こちらの世界に飛ばされた原因は父であるホーエンハイム氏の過去の過ちであること、母なる故郷、リゼンブールに残してきた女機械鎧技師の幼馴染のこと、体にウロボロスの刺青を持つホムンクルスとの死闘、傷の男と呼ばれる者との駆け引き、そして、焔の錬金術師、ロイ・マスタングのこと。
「焔の錬金術師・・ということはエドワードと同じ国家錬金術師なんですね?」
「まあ、そうなるな。あいつは、自信家で、それでいて捻くれ者で、でも誰よりも優しかった・・・」
一言、そのたった一言で僕はロイ・マスタングがエドワードの最愛の人なのだと悟った。まるで蝋燭を消すような優しさで惜しむように語られるさまはまさに恋人のそれだった。
「ねえエドワードさん、貴方、忘れられないんですね」
僕の言葉に笑って答えたエドワードは、それに必死で込めた嫉妬の色に気付いては居ない。それはとても切ないことだ。
「忘れられるわけがねえだろ」
人は、どうやったら思い出に勝てるのでしょう。

*** *** ***

今朝しがた降った雨の所為で端が濡れている新聞をエドワードは器用に広げて目を向けた。視力が悪いのか、それとも紙面を賑わす惨事が疎ましいのか、エドワードは頻繁に目を細める。睨み付けていると言っても通るそれは酷くエドワードの美しさを損ねていて僕は嫌いだった。エドワードは使ったものを片付けようとはしない。昨夜使った万年筆や羊皮紙をそのままにしておいては食事が並べられないので仕方なく皿を持っていない左手で机の端へと追いやった。生温く薄いコーヒーを入れれば朝食は完璧だった。冷めた感じの食卓に、目玉焼きの黄身の色だけが奇妙に浮いている。僕は会話を求めてエドワードのズボンのポケットからはみ出している手紙を話題に上げた。
「エドワードさん、また手紙を書いていたんですね」
何気ない風を装った僕の一言に、エドワードの焦点は一気に集中した。話を紛らわすかのようにエドワードはやたらと食器の音を鳴らす。
「・・・どういう意味だ」
飯が不味くなる、とまた彼は縦に皺を寄せた。大きな口を開けて目玉焼きを二口で平らげる。続いて雑にフォークを突き立てたかと思うと、ウィンナーを乱暴に口に放り込んだ。そうしてから自然に目は紙面を追いかけていた。貴方はいつだって僕の話は片耳半分聞き流すんですね。その態度に少し悲しくなって、僕は目を伏せた。
作品名:My love for your lion heart 作家名:しょうこ