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ぼくがせかいにのぞむこと、

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多分、僕が唯一この生涯の中で君を悲しませることがあるとすれば、それは誓って、僕の死そのものだと思うんだ。僕は僕のために君のために生涯を掛けて幸せであると、そう断言できるだろう。だけどもし、この先の世界で君が僕の存在に欠片でも気がついて、この約束を思い出してくれるのだとしたら、僕はそれこそがなによりも幸福であると、疑いはしないよ。 ─── 光也。 一生僕の、いとおしい人。

「ベルディーニ大尉、あなた今何を考えてました?」
笑いすら含めて上から降ってきた声に、私はまた君か、と呆れたように呟いた。
「君は問い掛けとか、そういった類のものが好きなのか?」
「元々考え主義なんです。それに、…こういった状況だからこそ、何かを考えずには、いられない」
彼の言葉にしばしば黙り込んだ後、私は気まぐれに彼の疑問に答えてやることにした。厳つい車の上から降りて来い、と手招きした私に彼はまるで飼われ犬のように元気に飛び降りた。
「死ぬときのことを・・・考えていた」
「死ぬとき、ですか。嫌にリアルですね」
「私が死ぬとき・・・一体どうしたら、彼を、この事実で・・・傷つけずに済む、かと」
握り締めた拳から、つうと一筋赤い血が垂れた。飛び散った硝子の破片を手に落としていたらしい。何やっているんですか、と苦笑した彼のそれが、昔見た金星の青年に似ていて胸が騒ぐ。
「昔をね、思い出しちまうのは死期を悟った人間がすることです。お言葉ですが、大尉はまだ当分死にそうでない、」
「・・・君にしては随分と、下手な励まし方だ」
殊勝にそう笑って見せた私の肩を、彼はぽんぽんと二度叩くと、泣きたいときは泣けばいいんです。大真面目にそんなふうに言って見せるものだから、やめてくれと動けそうにはなかった。

「まあなんにしろあれです、死なないのが一番ですが、もし、それでも死ぬ時があるのだとすれば、」
かみさまのしらないところで、そうと静かに息絶えたいモンですね。その台詞は私の知る中でもっとも彼らしく、また彼の周囲を取り巻いていた人生そのものをかたどった言葉だと、確かにそう感じた。


( かみさまのしらないところで / 大尉と彼 )


今でも時折考えるのは、果たして仁は俺の言ったとおりに幸せになったのだろうかと。
(別にお前を疑っているわけでもない、)(かといって救いが無かったとは言い切れない)

(俺だって暇じゃないんだ、どうでもいい奴のことなんて四六時中考えやしないよ)

夏の国語の授業は好きではなかった。日本と言う国は、何でも教訓としてしがみつきたがる。既にこの国からは戦争とか、大戦とかそういった類の物騒なものは死滅しつつあった。過去を恐れてもいけないし、忘れてもいけない。教育では夏のこの時期に決まって戦争モノを題材として扱うことが取り決められていた。
「では146ページ、相馬君、お願いします」
無差別に当てられて急なことに一瞬むっとした顔の俺を、教師はその鉄仮面で咎めた。仕方なしに今まで開いてもいなかったページをわざとらしく大袈裟に開いてみせると、ぶつぶつと良く聞こえない声で何段か読み上げた。よろしい、と教師は良く出来ましたなんて面で笑顔を向けた。
「相馬君、ね。大きな声を出さないと幸せにはなれないんですよ」
長年の教師生活で染み付いたみたいな笑顔、反吐が出る。俺の苛々を感じ取ったのか、丁度終業のチャイムが鳴り響いた。儲けもんだと挨拶もなしに教室を出て行こうとした俺を、すぐに事務のおばちゃんが扉で捕まえる。事情を飲み込めずに顔を白黒させていると、お電話ですよ。それだけぶっきらぼうに伝えられた。

生方さんと名乗る方から、と言われ受け取った受話器から、すぐに変に滑らかな日本語が躍り出た。
「あ、光也さんですか。僕です、光也さん?」
電話はいけない。仁の声に余りに似すぎた曾孫の声に俺は明らかにたじろいだ。
「お前、電話は駄目だ・・・顔見せろ、顔」
「今学校の近くの公衆電話ですねー、授業終わりました?」
「・・・人の都合とか考えたことあるか?」
曾孫の余りに理不尽な態度にどこかしら仁を見出して俺はますます幻滅していた。でもこんなことでへこたれていても仕方がない。俺は疑わないし信じない。(仁は確実に、幸せであってその中で生きたと)

次は俺がやくそくを守る番だと。(彼はきっと俺にも幸福であることを強いるであろう)

「仕方ねえな。お前、学校まで迎えに来いよ。サボってやるからどっか行こうぜ」
「さっすが光也さん!5分で迎えに行きますよ」

俺が、一生の中で唯一愛を囁いた貴方のために。
( きっとやくそくするよ / その後の光也 )




いよいよ俺たちもお終いのときが来たみたいですね、って思ったより軽く笑った彼の両足は既に何処かに消え失せていた。かくいう私の右腕も、随分と前に吹き飛ばされていた。私の脳内はもうずっとはっきりと、右腕をもぎ取られた痛みよりも、光也をもうこの腕で抱きしめられない痛みでいっぱいだった。まだ自由を保っている左腕で、私は必死で胸ポケットを探った。確かに堅い感覚はまだ私の胸に宿っている。最後まで、お前が私を見守っていると、(なあ、そう信じていいだろう?)
「ねえ、大尉。あなた最後に何を望みます?」
「望みなんてそんなもの、随分と前に置いてきたなあ」
乾いた笑いを微かに返した私に、彼は私もです。現実的にはっきりと言った。最後まで幸福で生き抜き通せと、彼を喜ばせろと。最後になってもう忘れかけていた光也の顔をまざまざと思い出していた。あの温もりでさえ。
「望みと言っては・・・アレだが。最後にもう一度、彼に会いたかったと言うのは、どうだろうか」
「それ、いいっすねえ。俺も彼女たちに会って、しっかり愛し通したかった・・・」
黒のナイトが私の胸で光り輝いているのがわかった。君を一人になんてさせない。私が愛した君を。

" なあ、生まれ変わりって信じるか? "

ああ、光也。馬鹿なことを。そんなもの信じるに決まっているだろう?
「そろそろ、お別れみたいですね。今までありがとうございました、ベルディーニ大尉」
「ああ、世話になった」
黒のナイトの光が益々私の胸の内で強く眩く光り輝く。信じるか、という問いを光也が不安げに問い掛け続ける中で私は最後に一息、静かに目を閉じた。

爆撃が何事も無いかのように私たちを飲み込む。


( それでぜんぶだから / 春日 仁の最後 )




「なんだか、とても久しぶりな気がするな、」
そこまで言ってから、仁は諮りかねるように一瞬間の間を取った。僕が揺らぐように首を傾げると、ようやく渋い顔をして、名を呼んだ。
「・・・慶光?」
「正解。光也じゃなくて、悪いね」
そんなことは! と慌てて否定した仁を冗談だよ、と嗜めるととたんに大人しくなった。
「僕は、君が結婚をしたと聞いて・・・それで・・・」
「哀しくはなかっただろう?」
「・・・それは、」
「それでいいんだ。僕たち、やっと切れない仲になれたんだもの」
「それって親友?」
「光也は?」