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壊滅的なラブロマンス

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赤茶色の紅茶の中身を覗いた。自分の間欠泉で負った火傷の跡ばかりが異様に目だって見える。ゆらゆらと揺れる自分の姿を見て居たくなくてまたすぐに紅茶を啜った。犬丸は、反対にあまり口をつけずにそのままカップをテーブルにおいてしまった。

「約束します。僕は何処にも行きません。それに君は、プレゼントには僕が欲しいと云いましたしね」

静かに、優しい声で犬丸はそう云った。ちょっと茶目っ気たっぷりに云うしぐさはなんとも名前のとおりだと思った。そう思ったとたんに涙が頬を伝った。透明な粒はすぐにズボンの上に落ちて小さな染みをいくつも作った。犬丸は、そっと暖かい手を伸ばして俺の頬に触れた。涙がその指に乗っかる。

「佐野君の涙は、綺麗ですね」

俺は、嗚咽を繰り返していて、何も答えることが出来なかった。犬丸はそんなこと重々承知で、ちょっとずつちょっとずつ俺の涙を拭ってくれていた。そして、急に、こう云った。

「君を、抱きたい。今すぐ」

俺は思わず犬丸の顔を見た。真剣な眼差しをしていた。俺は、すぐに頷いた。いつもなら間髪入れずに断るが、今は俺も同じ気分だった。こんな何時まで続くか分からない生温かいぬくもりよりも、全身で強く抱きしめて、何だか分からないくらいにとろんとろんに溶かして欲しかった。

「決まりですね」

犬丸は笑顔でそういうと泣きじゃくってまだ嗚咽の止まらない俺を抱き上げ、そのまま寝室へと向かった。堅い胸に顔を押し付けて、俺はその暖かさにさらに涙が出た。

なんだか、小さい頃に戻った気がした。



『 おはようございます。関東地方、今日は東京でも30cmを越える積雪が見込まれます。  既にもう降り始めている地域もあるようですね。今日はまさにホワイトクリスマス・イブ  と呼ぶのに相応しいでしょう。皆様、どうぞ幸せな週末を ・・・ 』

テレビがついているのに気がついて、すぐに俺は体を起こした。まだ腰の辺りがやんわり傷むがさほど疲れてはいないようだった。犬丸が、俺の起床に気付いて慌てて飛んできた。黒いズボンに黒いタートルネック。犬丸は呆けてて天然ぽいが、黒は似合うと思った。クリスマスのプレゼントには黒いものをあげようと漠然と思った。俺は、起きてから隣を確かめるのを止めた。もう、犬丸が居なくなることは絶対にないと思ったから。

「おはようございます、佐野君」
「おう、」

中途半端に俺は挨拶をするとそのままベットの横のカーテンを開けた。犬丸も笑顔で其処を覗く。

「もう降っとるんか」
「ええ。ホワイトクリスマスですって」

さよか、と俺は云ってすぐに寒い、と布団にもぐりこんでしまった。そんな俺を犬丸は季節感がないですねえ、と咎めたが俺はさして気にも留めなかった。それよりも、暖かい飲み物が欲しい。

「犬丸、飲み物」
「はいはい」
「・・・飾りつけ、やってまおうか」

俺はふとテーブルの端に積み重ねられたクリスマスの装飾品たちを見た。24日に飾り付けでは些か遅すぎるだろうか。そんな俺の心配を他所に犬丸は目を輝かせて頷いた。

「ええ、やりましょう。無駄にならないようで、よかった」

そんなところはやっぱり子供だ、と思った。クリスマスの、装飾品たちを俺は目を細めて見つめた。犬丸は飲み物を入れに台所に戻っていく。



イルミネーションライトの青が粉雪舞う外の風景と溶け合う。俺はその中を笑って犬丸に話し掛け、犬丸も俺に笑いかける。声を出せば帰ってくる、当たり前のような幸福をかみ締める。

何処からかクリスマスソングが鳴ってきて、俺はそれを無意識に口ずさむ。もうすぐ、12時やなあ、と俺は云って、ええ、そうですね、と犬丸も云う。

かち、とやけに大きな音がして時計は12時ぴったりをさした。

俺と犬丸は見つめ合って云う。

「メリークリスマス」

俺へのクリスマスプレゼントである君の存在は、眩しすぎて。そんな俺を、プレゼントであるはずの君は必死で抱きしめてくれた。

「     」

小さく、擦れた声で愛していると聞こえたのは、クリスマスにしては出来すぎだろうか...?

外で舞う雪以上に、今は君の体温が、暖かい。
作品名:壊滅的なラブロマンス 作家名:しょうこ