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あ か ね さ す 紫 に 架 か る 唄

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地獄堂の壁といったら相変わらずいたるところが開いていて、秋風が容赦なく隙間から忍び寄ってくる。風の匂いが変わったことでようやく俺は本から一度顔を上げた。いつの間におやじはここへ来たのだろう。気付くと毛布がきちんと折りたたまれた状態で置かれていた。三畳一間の狭い俺たち三人悪専用スペースは、今では専ら三人が揃うことはなくなってしまった。使い古されて色落ちしている毛布を手にとって包まる。今日はもうここに泊まっていこうかと思う。ふと、開け放された入り口を土間越しに見ると、既に日は落ちていて、空には静かに星が湛えていた。こんな風に空気の冴えた日は、星が綺麗で、そういう時は彼が帰ってくるかもしれない。あの漆黒の、蒼龍が。(考えすぎか・・・)首を少し傾けて、俺はまた本へ俯いた。するとすぐに、おやじの気味の悪い笑い声が聞こえて、すうと気持ちのいい霊気が横をすり抜け、畳に影を落とした。俺は、呆気に取られて、スローモーに顔を起こす。



「蒼龍・・・」

「何だ、その呆けた顔は。せっかくの美人が台無しじゃないか」



偉そうにネクタイを緩めた蒼龍は、束ねた髪を波打たせて、そっと俺の横に腰掛けた。俺はその本物の蒼龍に、驚いてばかりで、目はうっすらと濡れていた。(夢かと思うよ)思わず恐れ多い気持ちが生まれて、せっかく近付いてくれた蒼龍から自ら離れてしまう。



「・・・? 何故離れる?」

「いつものことさ、暇はないと云っているだろう」



声が自分のものではないみたいに不器用に震えて、落としそうになった本は気付かれないようにそっと畳の上に置いた。蒼龍はくすりと微笑んでから、俺の頭に手を乗せる。



「祐介、そのわりには携帯持ち歩いていないのね」

「蒼龍!」



もう無駄な意地を張るのは止めようと、その瞬間に長い長い溜息を吐いた。俺は結局予感めいたものが当たって嬉しいのだ。蒼龍が、帰ってきた、それだけのことが。



「もうくたばったのかと思ってたよ」

「そりゃあ残念だったね、ありがたいと思ってくれなくちゃ」

「うん・・・」



俺はそのまま蒼龍の方へ抱きつくように倒れこんだ。それを蒼龍は照れたように受け止める。



「何のまねだ、」

「ガラコのまね」



ガラコが心外だ、とでも云いたげに黄色い目を細めたのが見えた。そうか、と蒼龍は笑う。



「ねえ、次はいつまで居るの」

「祐介が望むならいつまでもいるさ!」

「・・・嘘つけ」



俺が無謀な質問をしたのはわかっていた。術師としての蒼龍は誰にも、何処でも縛ることは出来ない。そんなことわかっている。それでも聞いてしまうのは、やっぱり俺がこいつを誰よりも愛しいと感じているからなのだろう。急な安堵に俺はうとうとと瞳を瞬かせた。蒼龍は優しく顔を近づけて、そっとその唇を押し当てた。



「お前が死んでも・・・骨なんか、埋めて・・やらないさ」

「おやまあ」



嬉しそうな声色を最後に俺は完全に眼を閉じた。



「おやすみ、祐介」



これが一瞬の逢瀬だということぐらいしっかりわかっている。蒼龍には血の匂いが濃すぎる。俺は細く、静かに涙を一筋落とした。いつも、最後みたいな云い方をして去ってゆく。あんたは俺にどうして欲しいの。頼むから、不安にさせないでくれよ。



「好きだ、蒼龍」



掠れた声で、告げた。この言葉は、届いただろうか?




*** *** ***




学校の生活はそこそこ気に入っていたが、カリキュラム的にも、早朝から登校して受けるものではないと思っていたし、てっちゃんもりょーちんも(りょーちんは真面目な時の方が多いが、)午前から授業に顔を出すことは珍しかったので自分もそれに習っていた。学ランは三人悪一致で気に入っていた。(なんといっても憧れの竜也兄とおそろいなのだ!)俺はブランド物の黒シャツを中に着込んで、第一ボタンまでを大胆に開いている。髪が少し伸び目で、色白な所為か、入学当初は絡まれもしたが、三年にもなれば流石にそこまで無謀な奴らもいなく、(俺たちは町内ではやはり有名だ)そこそこ平穏無事に学校に馴染んでいた。



午後の日差しが一番強い真昼時に屋上に顔を出すのは癖みたいなものだった。じりじりと焼かれていく、その焦げた匂いが何かの罰の様で、贖罪の様な気もする。扉は長年の手入れ不足で鍵はもとより壊れており、誰でも入ってくることは可能だったが普段は三人悪の誰かしらがのさばっているため、よほどのことがない限り無人だった。



精悍な顔つきでグラウンドを眺めているてつしが居た。俺はりょーちんは居ないの? とその横に腰掛ける。てつしの赤いTシャツが鮮やかに眼に飛び込んでくる。りょーちんは授業。てつしの無愛想な返事が返ってくる。機嫌が悪いのかとてつしの顔を覗き込めば、左目が大きく青あざを作って腫れていた。



「てっちゃん、左目・・・」

「うん、久々に一発食らった」



てつしは悔しそうにその眼を擦った。見ればそこ以外にも顔には傷が何箇所か見受けられた。



「そう、珍しいね、誰に?」

「竜也兄」



うん、とそれ以上は聞かなかった。てつしも特に何も云ってこなかったのできっと聞いて欲しい話ではないのだろう。それならそれでよかった。これが俺たちのルールみたいなものでもあった。てつしやりょーちんとの会話は、気を張らなくてもいい分、楽だった。空気だけで会話が成立するのだ。



「・・・おやじが顔出せって」

「まだくたばんねえか、あいつ」

「俺たちの父ちゃんたちが子供の頃からおやじはおやじだろ」

「いい加減長生きだよな」



グラウンドから、甲高い女の声が聞こえた。綺麗な黒髪にウエーブをかけた美女が、屋上に向かって叫んでいる。流華だ。



「ちょっと、てつし!降りてきなさいよ!!サッカーあんたがいないと負けちゃうのよう!」

「てっちゃん、降りてこなくていいよ!」



一緒に居るくりくり頭はりょーちんらしい。てつしとりょーちんのクラスは隣同士なので合同で体育を行っているらしい。(そういえば流華も同じクラスなんだっけ)得点板を見てみれば、僅差でてつしたちのクラスが負けている。快刀乱麻の俊足、りょーちん相手に僅差というのはなかなかのものである。



「どうするの、てっちゃん、」

「うーん、お前次の授業何?」

「現代国語」

「じゃあ、行くしかねえな」



てつしがようやく重い腰を上げると、きゃあ、てつし大好きよ!と流華のこれまた高い声が聞こえた。これだから女は、とてつしは顔を顰める。 背を向けて歩き出したてつしが、忘れ物でもしたように振り返り、俺は面食らう。そういえばさ、とてつしは言葉を捜すように空を仰いだ。



「お前、綺麗になったのな」



何を今更、と俺は溜息をつく。そうかな、と返せば、そこだけは自信を持ったように、ああ、と帰ってくる。もし、本当にてつしの云うとおり俺が綺麗になったというのなら、それは、



「恋の力さ」