あ か ね さ す 紫 に 架 か る 唄
俺がそう自嘲気味に笑うと、おーおー、色っぺえなあ、とてつしが冗談交じりに笑った。綺麗とかそういう言葉は流華に云ってやりなよ、と俺はそのままてつしを見送った。グラウンドに赤いTシャツがすぐに現れ、黄色いTシャツのりょーちんと競り合うお昼前の最後の授業は大いに盛り上がっていた。
恋の力さ、か。
今更、蒼龍に告げた一言の重大さに気付き、頬を赤らめる。
蒼龍が与えてくれた恋心は、範囲を広げ、世界を侵食しているらしい。
早く会いたい。気持ちだけが穏やかで、まるで暖かい秋風のようだった。
*** *** ***
あまり期待はしていなかったのだが、やはり蒼龍は何処かの世界へ消えていた。親父が聞く。淋しいかと。そう聞かれると、そうかもしれない。如何してかな、人の気持ちは自由にならない。
どただ、と酷い地鳴りがして、てつしとりょーちんが走ってくるのがわかる。親父の不気味な引き攣り笑いに、俺もつられて笑ってみる(笑えていないのはわかっているが)ふと、蒼龍の長い黒髪を思い浮かべて、あの艶は夜の闇に似ていると思った。
(夜、暗くなるのが楽しみになるじゃないか・・・)
今はまた、耐え忍ぶ、貴方の帰りを。
てつしの「いもあめ!」という叫びと、りょーちんの「腹減った!」という叫びが重なり合い、こだまして、耳を劈いた。地獄堂に入る前に呼吸を整える二人に、俺は声を掛ける。
「久しぶりだね」
作品名:あ か ね さ す 紫 に 架 か る 唄 作家名:しょうこ