三毛猫シリーズ①
『冷えてくると、生きものが恋しくならないかい』
子猫が転がる毛糸玉のようにじゃれ合っている。その中の一匹が彼の膝に乗ってくる。あの、三毛猫だった。その手が二、三度撫でればまるで魔法にかかったように子猫は欠伸をひとつ漏らし、そこで丸くなる。俺が珍しい目つきをしていたのか、ふと向いてきた切れ長の目に馬鹿にするように笑われた。どうにも居心地が悪くて、俺は舌打ちをしてからその場を去った。吹いた風はどこまでも秋の匂いをしている。
俺は馬鹿だからもっとわかりやすく言って欲しかった。それで何か変われたかはわからないけれど。せめてあの日だけ、あの瞬間だけ、許されたあの時間だけ。あんたの隣に座ってみたかった。それはもう、二度と訪れない。秋が近づいて冷えて冬になって凍えても、二度と。あの日俺が背を向けて、あんたはどんな顔をしていたのだろう。そんなことさえも知ることは出来ない。
今は俺の隣に居る三毛猫に触れてみる。指先はぬくもりを伝えたが、それが心にまで届くことはなかった。