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カカオ100%はいらない 1 (銀魂/銀土)

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 なるほど、そういうことか。
 日輪の用がある程の知り合いとは自分のことだったらしい。当たり前過ぎてすっかり忘れていたが、確かに地上での日輪の知り合いといえば自分達がいる。灯台もと暗しもいいところだ。
「それにしても今日は随分騒がしいの。地上には前に何回か来たが、あんなに女子があちこちに密集しとるのは見たことがない。何かあるのか?」
「………………まあ、ちょっとした祭みてぇなもんだ」
 月詠のズレまくった質問に答える言葉が見つからなくて、銀時は曖昧に答えた。
 今時、こんな質問を投げ掛けてくる人間がいようとは思わなかった。バレンタインの存在を知らないなんて、一体どこの箱入り娘だ、と思ったが、よくよく考えてみると月詠は吉原に育てられたのだ。地上での常識が吉原には通じないように、吉原での常識も地上では通じない。
(でも、他の遊女達がバレンタイン知らねぇなんて一番あり得なさそうだけどな)
 吉原という場所が特殊なのか、それとも月詠が単に知らないだけなのか――いずれにしも今日の事を月詠が知らないのだけは間違いなさそうだ。
「そうか、祭だったか。賑やかなのは良いな」
「そ、そうだな」
 すっかり銀時の言葉を信じきってしまった月詠に銀時は頷くしかなかった。
 どうにも調子が狂う。
 基本的に自分のペースを崩すことは滅多にないのだが、どうしてか日輪や月詠相手だと上手くいかない。それだけ相手が上手なのだろうとは思うが、毎度毎度こうなのはどうにも頂けなかった。
(それにしても、なんかこう、コイツみたいなのを知ってる気がするんだよな)
 誰だったか、と考えて思わず「あ」と声を上げる。
「どうした、銀時?」
「あ、いや何でもねぇよ」
 慌てて頭を振ってみせると、月詠も納得したのか、そうか、と頷いた。
(土方に似てるんだ)
 護るべき者が居るのも、護るべき場所があるのも、常に護ることを考えているのも。芯は真っ直ぐで何をどうやっても折れなさそうなくらいしっかりしているのに、他人に甘えるのが下手で、一人で何でも抱えて苦しんで。
 きっと生きることに不器用なのだ。自分も決して器用な生き方をしているとは思わない。だけどそれでも彼らの周りはいつでも甘えてくるのを待っている。自分が土方に対してそう思うのと同じように。
「もう戻るのか?」
「ああ。日輪達も待っておるしな」
 背を向けた月詠はそう言って歩き出す。一旦立ち止まって、また吉原に遊びに来い、と銀時に告げた。
 ああ、と短く頷いて、銀時は雑踏に消え行くその背を見送った。




 帰宅してだらだらと過ごしながら夜になるのを待った。
 電話も予想通り鳴る気配はなくて、一人しかいないこの部屋は異様なまでに静かだ。隙間風が当たるこの部屋は暖房器具も置いてないせいで、しんと冷えきっていてうたた寝をするのには不適切だった。うっかり寝てしまおうものなら、翌日には季節制の変声期のできあがりだ。そうなったら元も子もない。ヤる前からそんなになっては困ると毛布に包まって寒さを凌ぐ。
 テレビの音を右から左へと聞き流しながらぼうっと画面を眺める。勿論、見ているわけではないので放送されている番組の内容までは入ってこない。
 番組も中盤になりCMに突入した時、外の階段を上がってくる足音が聞こえた。
 トントンと響く金属音、一定に保たれたリズムテンポ、刀の鍔が鳴る音。
 何度も繰り返し聞いているのでその正体は銀時にはよくわかった。
 ――土方だ。
 確信に似たものを抱いて立ち上がる。高揚がひどく昂ってそわそわと落ち着かない。そのまま呼び鈴が鳴るのが待ちきれなくて、玄関へと足を向ける。
 玄関で出迎えたら、土方は喜んでくれるだろうか。
 そんなことを思いながら、玄関先に立つと、引き戸越しに自分と同じ身の丈程の黒い姿が見えた。
 まだ呼び鈴が鳴らないところからすると、躊躇っているのだろう。全く仕方ねぇな、と苦笑して銀時が引き戸の取っ手に手をかけて開きかけた次の瞬間。

 ゴォォォオオオンッッ!!!

 凄まじい轟音と衝撃。
 唐突に訪れた招かれざる客に、とりあえず現状だけでも把握しようと、目の前に立ち塞がる影を見上げる。
「………………え?」
 喉元に突きつけられた刀の切っ先と目の前に立つ土方と。
 想像すらしなかった今夜の出会い頭に思わず出たのは短い間抜けな声だった。
 そしてさらに追い打ちをかけるように、土方はこう言う。
「腐れ縁のよしみだ、遺言なら今ここで聞いてやるぜ?」


 ――誰でもいい。
 誰でもいいから、今日が何の日か教えてくれ。


 突きつけられた刀の刃先と土方の顔を交互に見ながら、切実に思うのだった。