Doubt
「・・・君の普段の行動パターンが目に見えるようだが。残念ながらそう簡単にはいかないようでね」
「・・・どういうことですか?」
アルフォンスの問いに、彼はこれは未確定な情報だが、と先に付け加えた。
「さっき事情を聞かせてもらった男達が言うには、本物のスタンレーの息子と女性を一人、坑道に押し込めているそうだ」
「え」
「ついでに私も詰められるはずだったそうだがね。私は彼らが連れて行かれるのを見たわけではないからね。真偽のほどは定かではないが、炭坑自体はこの道の先にある。取りあえず君たちには様子見と、もし本当に彼らが囚われているというのなら、救出を頼みたい」
もしも本当なら放っておく訳にはいかないし、証言も取れることだし。今回、軍はアテに出来ないようなので、使える手駒はごく限られている。なので、使えるモノなら何でも使おう。例えそれが鋼の錬金術師でも。
「ああ、勿論今回のこの件については、個人的に借りは返させて頂くし」
さぁ何でも好きな事を言いたまえ、とか。頼むほうが何でこんなに偉そうなんだ。…しかも満面の笑みで言ってる辺り、何かいかがわしい気配がする。
が、こんなチャンスを逃すわけもなく。
「・・・稀少本2冊と推薦状」
「ちょっと、兄さんてば」
「ああ、構わんよ。取りあえずそちらは任せる」
ここぞとばかりに兄は希望を述べる。アルフォンスがそれを諫めるが、普段であれば一言二言何かが返ってくる筈の所、珍しくなんの条件も嫌味もなくあっさりと彼は承諾した。
「・・・口頭だから無効とか後で言わないよな?」
「そんなことはしないよ」
「何かすんなり話通すあんたって気持ち悪ぃ」
「・・・素直に応えているのに何故そんな事を言われなければならないんだ」
互いに釈然としない顔を突き合わせて、それでもエドワードはまぁいいや、と呟いて一歩下がった。
「オレたちは人質救出。じゃ、あんたは何しに?」
問えば、その瞬間思わず黙り込んでしまいそうな笑みが、一つ。
「勿論、このご招待の礼を述べに」
その笑みを見てしまった瞬間の3人の心情は同じだった。
――――お気の毒さま。
同情の余地は、まぁないのだけれど。