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フリークスの楽園

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「…あっちにある」
思わず殴りたくなる衝動を必死に抑えて、戸棚を顎で示す。そこを漁った臨也は、最後に蓋を開けたのはいつかも分からないインスタントコーヒーの瓶を発掘した。
「ちょっとコレ、インスタントじゃん! 信じられない!」
「うぜえ」
もともと静雄はさしてコーヒーにこだわりなどないし、お手軽に安く飲めるならそれに超したことはない。大体今の発言は、インスタントコーヒーの愛飲者と製造元に甚だ失礼だ。
やっぱり一発殴ってやろう、大丈夫軽くだかるーく。などと考えて拳を握りこむが、既に臨也はコンロの前に移動し、お湯を沸かし始めていた。なんだかんだ言いつつ、嬉々としてコーヒーを淹れる。そしてあろうことか、
「シズちゃんも飲むよね?」
などと聞いてよこした。反射のように静雄は、毒でも入れる気か、とも思ったが、特に邪気のなさそうな顔に、素直に頷く。
お湯を注ぐだけで出来上がったコーヒーが二つのカップに入っており、そのうちの一つのカップを渡される。臨也は自分が淹れたそれを一口飲むなり、呟いた。
「あー…、インスタントの味がする」
「文句あんなら飲むな、俺が買ったコーヒーだ」
「別に文句じゃないよ、率直な感想。って何してるの」
カップを片手に冷蔵庫を開ける静雄に、臨也が問いかける。それを無視して中から牛乳パックを取り出し、コーヒーの入ったカップに並々と注いだ。
「……ねえ、あのさあ」
「うるせえ」
「もしかしてブラックコーヒー飲めないの?」
「うるせえ喋んな」
「……! プハッ! フ、アハハハハハハ!」
「………」
「ハハハハ、ちょ、アハハハ! その図体とその顔でブラック飲めないとか! やめてよね! ハハハハ! 腹筋壊れる!」
ぴきり、と静雄のこめかみが音を立てた。やっぱコイツ一回殴ろう。大丈夫、殺さないように気をつけるから。まあ失敗するかもしれないけれど。そんな不穏なことを考えながら静雄は、手の中で砂に還ってしまいそうなカップをテーブルの上に置き、拳を握り締める。自身の絶体絶命の危機に気付いていない臨也は、腹部を押さえながら笑い続けていた。
さてそろそろ殴るか、と思った瞬間に、しかし目前で笑う臨也の表情を見て、思わず怒りも忘れてポカンとしてしまった。
コイツ、こんな顔して笑うやつだったか?
例えば、猫が逆立ちをして町内散歩しているのを見たら、今と同じようなリアクションを取るかもしれない。そのくらい、今の臨也の顔は静雄にとっては摩訶不思議なものだった。
静雄が見たことのある臨也の笑みというのは、嘲りと侮蔑が全体の9割くらいを占めた歪んだものだった。こんな、ただ純粋に楽しそうに笑うなんて、知らなかった。静雄以外の人間にはこんな顔をすることもあるのだろうか。
「……ん? どうしたの?」
唖然として臨也を見ていた静雄の視線に気付き、ひとしきり笑った臨也が、笑いすぎて滲んだ涙を拭きながら不思議そうに尋ねる。
なんだか物珍しいものを見たせいで怒気をそがれてしまった静雄は、きまり悪く拳を開き、代わりにさっき置いたカップを手に取った。
「なんでもねぇよ」
次にキレたら殴ってやればいい。そう思って、カップに口をつける。
インスタントコーヒーに牛乳を足したお手軽なカフェオレの味は、それほど悪くもなかった。
作品名:フリークスの楽園 作家名:サカネ