二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

フリークスの楽園

INDEX|4ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

それならば、こいつのこんな態度はすぐに無くなるだろう。静雄は、確かに自分が人の領域をとっくに超えてしまっていることを知っていたので。
その単純な事実に向き合ったとき、痛覚の鈍い体の、その奥が、少しだけ痛みを訴えたような気がした。





○ 4日目

周囲の人間に、犬猿の仲だと認識されている男二人で、鍋を囲んでいる。

異様な光景だ。臨也と静雄の日常を知っている人間が見たら、腰を抜かすかもしれない。実際、静雄自身にとってもこの光景は、異常以外の何者でもない。
こんな異常な事態のきっかけは、昨夜の出来事に遡る。つまり、怪我をして帰ってきた静雄を、臨也が治療した、というのが発端である。
静雄は色々と錯乱していたのだが、少し考えてみれば、どうやら臨也は特になんの裏もなく静雄に治療を施したということになる。静雄は困った。どんな形であれ、仇敵に借りを作ってしまったのだ。多分、礼でも言えばそれですむことなのだろうが、たとえ記憶がないとはいえど、あの臨也に素直に謝礼の意を示すなど、はっきりいって癪だ。
そこで静雄はこう切り出した。
「臨也、なんか食いたいもんあるか?」
その結果、取立て予定が立て込んでいなかったため、早々に帰宅の途についた静雄は、鍋の材料を買って帰り、男二人の鍋作りに勤しむことになったのである。

「なんか野菜の切り方、大雑把じゃない? 俺、野菜苦手だからもうちょっと小さく切って欲しかったんだけど」
「うぜえ」
実際、静雄はそれなりに自炊をするが、鍋は苦手だ。野菜を切り分けて行くの作業が難解なのである。何せ、まな板どころかその下のシンクをも切り込みかねない。なので、自然な成り行きで、包丁を使う回数を減らすことになり、結果野菜が大きくなる。
「文句あんなら食うな」
「いやいや、美味しいよ結構。長ネギがやたらと長いけど」
「長ネギは長いもんだろ」
「いやえっと…まあいいや」
ぶつくさ言いながら、それでも臨也はよく食べた。

ひとしきり具材を食べ終えてから、静雄は少し離れたところで一服しながら臨也に尋ねた。
「シメはうどんでいいな」
「えー? 普通そこは雑炊でしょ」
「うどんしか買ってきてねえ」
「レトルトのご飯の買い置きがあるの知ってるよ」
とびきりの笑顔で近づいてきて、得意げに情報を披露する記憶喪失の情報屋に、静雄は思わず舌打ちをする。
「駄目だ、うどんだ」
「じゃあジャンケンね。はい、最初はグー、ジャンケン、」
ぽん。日本人の悲しい性で、条件反射で応じてしまった。臨也がパー、静雄がグー。
「はい決定!」
得意満面に宣言するその顔が憎々しい。静雄は一度煙草の煙を深く吸い込んでから、思いきりその顔に向けて煙を吐き出してやった。
無防備にそれを吸い込んでしまった臨也は、たまらずむせだした。
「…げほっ、ちょ、げほッ! ちょっとさすがに、げほ! 酷い…げほごほッ!」
むせながら何か静雄を非難しているようだ。だが殆んど咳こんでいて、何を言いたいのか分からない。
顔を赤くして咳き込む臨也が、涙目で静雄を睨んでいる。これも、はじめて見る表情だ。静雄は可笑しくって煙草を手にしたまま吹きだした。臨也は恨みがましい視線のままだ。
笑いながら静雄は思う。お互い、まるで人間みたいなやり取りをしているものだ。だがこれも、そう悪くはない。

だが、静雄がただの人間であるはずもない。静雄は、記憶を失う前の臨也が『化け物』と忌み嫌った存在である。
忘れていたそのことを思い出させたのは、夜半に風呂に入ろうとした静雄に臨也がかけたこんな言葉だった。
「そういえば、昨日の傷どう? まだ痛む?」
その問いに、思わず体が一瞬静止してしまった。
「……いや」
「あとで包帯巻こうか?」
「いい」
そう、とだけ臨也は応じた。特に疑問は感じなかったようである。
静雄は、本来正直な男だ。嘘など滅多につかないし、そもそも嘘をつくような器用さを兼ね備えていない。そのことを静雄自身がよく知っていた。だから、今の会話にも特に嘘はなかった。
ただ、黙っていただけだ。昨夜負った傷など、今日の昼には跡形もなく消えていたのだということを。
ならばどうして口を噤んだのか。その理由を深く追ってしまうことが、らしくもなく静雄は、怖かった。
作品名:フリークスの楽園 作家名:サカネ