ミカドSOS
今の話を聞いて出てくるのは、いっそ首の骨を折ってやろうかという殺意だけだ。十代の少女の下着を深刻そうに問題にする25歳の男。虫酸が走る。今はまだこの雇い主が必要だとういう打算が、生理的嫌悪感と戦っていた。
そんな葛藤など歯牙にもかけず、うんうんと悩んでいた臨也の瞳が輝く。また、碌でも無いことを思いついたのだろう。
「そうだ、いいことを思いついた!ちゃんとした下着を送ってやればいいんだよ。きっと、今まで使ったことがなかったから、下着屋にも行きづらいんだよね。ちゃんとしたのに慣れれば、すぐにこっちの方がいいって思うようになるよね」
うきうきと下着のカタログを取り寄せるように言いつける変態に、沸き上がる罵倒の言葉を飲み込んだ。女としての同情心を、過去の憎しみで宥めすかして、大きな溜息で押し流す。
これも仕事だ。
※
本当に、どうして周りの男どもはこうも腹立たしいことしかしないのだろう。それとも、彼らは親戚なのだろうか。そうだ、世の中の男全部がそんなだと考えるのは失礼だし、何より嫌すぎる。あの二人が似た性格をしているというだけに決まっている。
幼馴染が泣いて嫌がりそうな結論に辿り付いた時、特徴的なシルエットを見つけた。
「こんにちは、セルティさん!聞いてくださいよ、臨也さんがまた、」
猫耳がかわいいヘルメットがこちらを振り向いた。それと同時に、視界に入った人影に固まる。今、私は一番聞かれたくない人に一番聞かせたくない名前を言わなかったか。
「よお、竜ヶ峰」
ゆっくりとベンチから立ち上がるバーテン服の男は、池袋では知らない人はいない臨也の天敵だ。口走ってしまった名前が耳に入っていなかったことを祈りつつ、にっこりと笑って挨拶をする。
「こんにちは、静雄さん。すみません、セルティさんの影になってて気づきませんでした」
「ああ、んなこと気にすんな」
わしわしと頭を撫でてくれる大きな手は心地よくて、ほっと息をついた。
「で、臨也に何をされたって?」
やはり聞き逃してはくれなかったようだ。よく見れば、米神に血管が浮いている。急に力をかけられた頭が圧迫されて、すごく痛い。
「いえ、その、静雄さんが気にするほどのことでは…」
「いいから言え。あの害虫は放置しとくと、どんどん調子に乗りやがるぞ」
『そうだ。帝人は特に気に入られてるようだから、気をつけないと。私でよければ相談にのる』
本気で心配されると、これ以上はぐらかすなんてできない。
「えっと、じゃあ言いますけど、あの、はしたない子だとか思わないでくれますか?」
じっと見上げて、反応を伺う。なぜか静雄さんは、私の頭から手を離して、視線をそらし、自分の頭を掻き出した。心なしか、顔が赤い。話す前からそんな反応をされると、余計に恥ずかしくなる。
『そんなこと思うわけがない。臨也にそんな酷いことをされたのか?』
ますます真剣な雰囲気で、セルティさんがPDAの文字を向ける。それに勇気づけられて、私は話しだした。
話し始めると、内容が内容だけに微妙な空気が漂う。だから言いたくなかったんだと、心中で臨也さんを罵りながら、早口でまくし立てる。
「それで、あの、今まで使ってたスポブラが全部なくなってて、もらったやつ着るしかなくて。なぜかサイズぴったりだし、でも臨也さんにもらったやつなんて嫌だから、新しいの買いに行こうと思って今日は街まで出てきたんです」
話し終えると逆に腹が据わるもので、二人の方をそろそろと見やる。
むっつりと黙り込んでしまった静雄さんは何を考えているかわからないが、セルティさんは同情に満ちた空気を向けてくれた。
『それは、災難だったな。まあ、その、新しいやつを買ったら、送り付けられたのは捨てて、忘れてしまえばいい』
「そう、ですよね。ありがとうございます!セルティさん」
やっぱり、彼女は池袋一の癒しだ。涙ぐみそうになりながら礼を言うと、人ではないが女性らしい華奢な手が頭を撫でてくれた。
そこへ、地を這うような声が響く。嫌だ、見たくないと抵抗する本能ををなんとか抑えつけて、視線を向ける。ここでちゃんと向きあわなければ、もっとひどい目に合うとわかっているからだ。
「竜ヶ峰。お前、今あの蚤蟲が送りつけやがった下着を着てるんだな?」
がっちりと肩を押さえつけられ、身動きがとれない。固唾を飲んで見守っているセルティさんに心の中で助けを求めた。
「は、はい」
「脱げ、今すぐだ」
「え、そんな、」
「いいから脱げって言ってんだろうが!脱げねえなら脱がせてやる」
意味がわからない。こんなところで下着を脱ぐなんて変態のような事ができるわけがない。そんな私の心中などお構いなしに静雄さんは痺れを切らせた様子で、ブレザーのボタンを外した。シャツにかかる手が熱くて、ますますわけがわからなくなる。
その時、黒い影が動いた。
横殴りに吹っ飛ばされた金髪が残像になってきらきら光るのだけが見えた。
「いって、セルティ、何すんだ!?」
ぶつかった自販機は瓦礫と化しているのに、静雄さんの身体には傷ひとつない。何ヶ所か服が破れているだけだ。すっかり埃をかぶってしまった白いシャツと黒いズボンを叩きながら、静雄さんが起き上がる。
思わず、緊張に身体を震わせてしまった。また、あんなことされたらどうしよう。そんな私の反応に気づいたのかはわからないが、セルティさんが私をかばうように立ちはだかる。
『それはこっちの台詞だ!こんな往来で、女の子の下着を脱がそうとするなんて、なんてことをするんだ!!』
「う、それは、……悪りぃ」
『わかればいい。今度こんなことをしたら手加減なしにいくぞ』
「あれで加減してんのかよ。竜ヶ峰、悪かったな。俺キレちまって」
正気に戻ってくれたようだ。安心して力が抜ける。震える足をなんとか支えながら、はくはくと口を動かす。何が言いたいのか自分でもわからない。
「ま、」
「竜ヶ峰?」
「まだ私、嫁入り前なのに……。うう、う」
どんどん瞼の裏に熱が集まってくる。じわじわと目尻に溜まっていく水滴が、ついに頬を伝う。
「竜ヶ峰!ほんとに悪かった!ちゃんと俺がもらってやるから!!」
錯乱したのか意味のわからないことを言い出した静雄さんの前で、セルティさんが鎌の形に影を集めている。
サングラスの向うの目は真剣で、あんなことをしたのにやっぱりかっこよくて、どんどんと顔に血が集まってくるのを止められない。頭が爆発しそうだ。
「し、静雄さんのばかーーーーー!!!!」
ついに耐えきれず、脱兎のごとく逃げ出した。その後、静雄さんがセルティさんの鎌の餌食になったかどうかは知らない。知りたいとも思わない。
一つだけわかっていればもういい。男は皆変態だ。
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私的女体化帝人くんは、胸はけっこうすごい感じがいいなと思ってます。もちろん、ひんぬーでもおいしいのですが。
以下は、胸より太ももと二の腕派の妄想です。