帽子
「あ、やっぱアンタ」
こっちのが格好いいな
と
六条千景が気安く門田京平の帽子を取って
「あ、でもやっぱ」
こーやって目深に被ってっと
と、今さっき脱がせたばかりのキャップを
またいつものように目深く被せる
「アンタの目つき鋭いの解ってカッコいいわ、うん。」
どっちも
捨てがたいよなぁ
と
帽子を被せてみたり脱がせたり
「・・・一つ、言っていいか。」
「ん?何?うーん、やっぱどっちもイイ。」
「お前は一体何がしたいんだ?」
「何って。アンタどっちがカッコいいかと思ってさぁ。」
「俺はお前の玩具じゃねぇんだよ帽子返せ。」
と
門田が手荒く千景の手から帽子を取り戻し
目深に被ってまだ伸びてくる手を引っぱたく
「ッテ!何だよぉ、俺はオッサンの格好いいトコ見てぇのに。」
「俺は別にどうだっていいし第一、だ。」
お前は一々埼玉から来んなつってんだろうが、と
門田が千景を見て溜息をつく
「毎週毎週。交通費だってかかんだろうが?」
「あれ?気にしてくれんの?だったら、くれ。」
交通費寄越せ、と
目の前へ差し出された掌に
門田はほらよと空になったコーヒーの空き缶を置く
「え?間接キッス?さすがオッサンは古風だよなぁ。」
ちゅっ、と
空になったその缶の飲み口に口付ける千景の頭を
今度こそ手加減無しに門田の手が上から押さえる
「あのな。言ってるがな、いつでも。」
「はいはいー。大人からかう暇あったら仕事でもしろ、だ。」
「解ってんならそうしろ。ったく。いつもフラフラと。」
「フラフラさせんのはアンタのせいだし。」
「はぁ?!」
「俺だって忙しいのに来てやってんだぜ?ハニー達宥めて。」
「来てくれとは一度も言ってない。寧ろ来るなと言ってる。」
「オッサンが来てくれねーからしょうがねぇじゃんか。」
「だから!何故俺が埼玉へ行く話になる。」
「えぇー。だって会いたくねぇの?俺に?」
「・・・俺が今まで一度だって」
お前に会いたいと言った事があるか?
と
腕組みをした門田が椅子の背に背中を打ち付けて
大きな溜息をつく
「んん?あったんじゃね?」
「無い!!つか、あるわけが無いだろうが!」
「えぇー。そぉだったっけか?」
「迷惑してる以外の何物でも無い。」
「うわー。あんな事言ってる。オッサン、ツンデレ系?」
「・・・よっぽど、殴られたいらしいなお前は?」
「え、遊んでくれんの?」
にやっ、と
それは嬉しそうに
ストローハットの下で千景の瞳が輝き
パシンと
固めた右手の拳を左の掌に打ち付けて
「ココで?」
と
ワクワクした声で問う
ここは公園だし
確かに少しばかり暴れたところで大丈夫そうではあるが
と
一応きちんとした大人の常識を持った門田は
周囲を見渡して首を振って溜息をつく
「駄目に決まってんだろ。警察呼ばれるぞ絶対。」
「えぇー?大丈夫じゃん?ちょっと手合わせするだけだし。」
「お前とやりあって手合わせで済んだ事があるか?」
「無ぇ。」
あっさりと答える千景は
それは嬉しそうに
ちょいとストローハットを脱いで髪をかく
「だってさぁ。アンタ強ぇし。やってっと楽しいもん倒すの。」
それにさ
「今日こそアンタ倒して。俺が突っ込む番だから。」
「だから!そういう事を言う奴とこんなトコでやりあえるか!」
「あぁ、そだな。ベッドも無ぇし。まぁ俺は青カンでもいいけど。」
「青、・・・っ、お前は!!」
いい加減にしろ!!
と
猫の子を掴むように門田の手が
千景の襟足を掴み
「ちょっとこっち来い!」
と
公園を出て歩き出す
「つか、コレ、ちょい、歩きにくいってオッサン?」
「じゃあつべこべ言わずについて来い。」
ポイと放り出すように千景の襟足を離した門田が
ずんずん歩く半歩後ろを
嬉しそうに
千景がポケットに両手を突っ込んで歩く
それを反対側の歩道から遠目に見つけたのは
遊馬崎と狩沢で
満面の笑みでねぇアレアレまた来てるよろっちー、と
興奮気味にはしゃぐ狩沢と
あれ本当っすね、とまたいつもの事かと受け流す遊馬崎
ねぇアレって絶対にろっちーってドタチンの事好きだよね
そんでドタチンも好きって事だよねと一人盛り上がる狩沢に
まぁ気に入ってるみたいなのは確かっすけど、と
遠慮がちに遊馬崎が返し
あれぞボーイズのラブだよねぇドタチンはまぁボーイって
言うにはちょっと歳食ってるけどいいよねと
ヒートアップする狩沢に遊馬崎がハァと溜息をつく
そんな二人に気付かず
やがて門田がここだ入れと千景に示したのは
雑居ビルの中の一つのドア
入ってみるとそこは
「うわぁ。何これ解体中かよ?」
「馬鹿。逆だ。内装の途中だ。作りかけだ。」
「へーぇ。オッサンの職場?」
「まぁな。」
ワンフロアぶち抜きで
がらんどう状態の部屋は
塗装やら配管やら全てがまだ途中で
様々な道具やシート、ペンキ類で雑然としていて
しかし仕切りも何も無いのでそれなりの広い空間だ
「ここなら少々暴れても大丈夫だろう。但し何も壊すなよ?」
「了解。オッサン首になったら困るしな。」
「そういう事だ。置いてある道具類を使うのも無しだぞ。」
「解ったって。んじゃ。」
遠慮なく
行かせて貰うぜ?
と
拳を固めてニヤッとしたのは二人同時
しばらく
がらんどうの部屋に
肉が打たれる音やぶつかり合う音
床を転げる音や床を蹴る音などが響き
30分も経った頃
やっと
「今日は」
俺の勝ちだぜオッサン?
と
ニヤリとした千景が
門田の上に馬乗りになって押さえつけながら笑う
「あっは。油断した?いつも自分が勝つって?」
「馬鹿言うな。」
汗まみれになって門田を押さえつけている千景の頭にも
押さえつけられている門田の頭にも
当然の事だがもう帽子など載ってはおらず
お互い
汗で湿った髪が逆立ち乱れて
千景の髪からポタリと
汗の雫が落ちて門田の頬を濡らす
「・・・お前。どっかヤられてやがんな?」
急に門田がそれまでと変わった口調になり
千景の瞳が少しだけ細くなった
「身体の動きがいつもと違ったからな。無茶しやがって。」
「・・・へぇ。オッサンさすがだな。んで手加減したっつのかよ?」
「当たり前だ。」
「・・・サイテー。」
ガッカリだよ
と
千景が急にぐにゃりと力を抜いて門田の上から退き
門田の横に寝転がる
「手加減なんかすんなよなぁ?俺本気でやったのに。」
「あぁ、お前はいつだって本気だからな。」
「いつ、気が付いた?」
「あぁ?そうだな途中まで気付かなかったが違和感があった。」
「・・・面白くねぇ。」
「仕方無いだろう。お前が悪い。怪我か?」
「まぁな。チョット刺された。」
「何処をだ?」
「背中。見る?」
「見る、つうか。お前、傷開いてねぇか?」
「わぁ京平、心配してくれてんの?」
「ふざけてねぇでさっさと見せろ馬鹿!」
ジャケットと
シャツを
脱がせてみた千景の背中には
ぐっしょりと血の滲んだガーゼ
ガーゼから漏れた血がシャツにばかりか
上着にまで及び
あぁ畜生これ高かったのによと悔しがる千景と
お前それどころじゃないだろうと慌てる門田
知り合いに医者が居るからと
新羅のところへ千景を連れて行こうとする門田に
こっちのが格好いいな
と
六条千景が気安く門田京平の帽子を取って
「あ、でもやっぱ」
こーやって目深に被ってっと
と、今さっき脱がせたばかりのキャップを
またいつものように目深く被せる
「アンタの目つき鋭いの解ってカッコいいわ、うん。」
どっちも
捨てがたいよなぁ
と
帽子を被せてみたり脱がせたり
「・・・一つ、言っていいか。」
「ん?何?うーん、やっぱどっちもイイ。」
「お前は一体何がしたいんだ?」
「何って。アンタどっちがカッコいいかと思ってさぁ。」
「俺はお前の玩具じゃねぇんだよ帽子返せ。」
と
門田が手荒く千景の手から帽子を取り戻し
目深に被ってまだ伸びてくる手を引っぱたく
「ッテ!何だよぉ、俺はオッサンの格好いいトコ見てぇのに。」
「俺は別にどうだっていいし第一、だ。」
お前は一々埼玉から来んなつってんだろうが、と
門田が千景を見て溜息をつく
「毎週毎週。交通費だってかかんだろうが?」
「あれ?気にしてくれんの?だったら、くれ。」
交通費寄越せ、と
目の前へ差し出された掌に
門田はほらよと空になったコーヒーの空き缶を置く
「え?間接キッス?さすがオッサンは古風だよなぁ。」
ちゅっ、と
空になったその缶の飲み口に口付ける千景の頭を
今度こそ手加減無しに門田の手が上から押さえる
「あのな。言ってるがな、いつでも。」
「はいはいー。大人からかう暇あったら仕事でもしろ、だ。」
「解ってんならそうしろ。ったく。いつもフラフラと。」
「フラフラさせんのはアンタのせいだし。」
「はぁ?!」
「俺だって忙しいのに来てやってんだぜ?ハニー達宥めて。」
「来てくれとは一度も言ってない。寧ろ来るなと言ってる。」
「オッサンが来てくれねーからしょうがねぇじゃんか。」
「だから!何故俺が埼玉へ行く話になる。」
「えぇー。だって会いたくねぇの?俺に?」
「・・・俺が今まで一度だって」
お前に会いたいと言った事があるか?
と
腕組みをした門田が椅子の背に背中を打ち付けて
大きな溜息をつく
「んん?あったんじゃね?」
「無い!!つか、あるわけが無いだろうが!」
「えぇー。そぉだったっけか?」
「迷惑してる以外の何物でも無い。」
「うわー。あんな事言ってる。オッサン、ツンデレ系?」
「・・・よっぽど、殴られたいらしいなお前は?」
「え、遊んでくれんの?」
にやっ、と
それは嬉しそうに
ストローハットの下で千景の瞳が輝き
パシンと
固めた右手の拳を左の掌に打ち付けて
「ココで?」
と
ワクワクした声で問う
ここは公園だし
確かに少しばかり暴れたところで大丈夫そうではあるが
と
一応きちんとした大人の常識を持った門田は
周囲を見渡して首を振って溜息をつく
「駄目に決まってんだろ。警察呼ばれるぞ絶対。」
「えぇー?大丈夫じゃん?ちょっと手合わせするだけだし。」
「お前とやりあって手合わせで済んだ事があるか?」
「無ぇ。」
あっさりと答える千景は
それは嬉しそうに
ちょいとストローハットを脱いで髪をかく
「だってさぁ。アンタ強ぇし。やってっと楽しいもん倒すの。」
それにさ
「今日こそアンタ倒して。俺が突っ込む番だから。」
「だから!そういう事を言う奴とこんなトコでやりあえるか!」
「あぁ、そだな。ベッドも無ぇし。まぁ俺は青カンでもいいけど。」
「青、・・・っ、お前は!!」
いい加減にしろ!!
と
猫の子を掴むように門田の手が
千景の襟足を掴み
「ちょっとこっち来い!」
と
公園を出て歩き出す
「つか、コレ、ちょい、歩きにくいってオッサン?」
「じゃあつべこべ言わずについて来い。」
ポイと放り出すように千景の襟足を離した門田が
ずんずん歩く半歩後ろを
嬉しそうに
千景がポケットに両手を突っ込んで歩く
それを反対側の歩道から遠目に見つけたのは
遊馬崎と狩沢で
満面の笑みでねぇアレアレまた来てるよろっちー、と
興奮気味にはしゃぐ狩沢と
あれ本当っすね、とまたいつもの事かと受け流す遊馬崎
ねぇアレって絶対にろっちーってドタチンの事好きだよね
そんでドタチンも好きって事だよねと一人盛り上がる狩沢に
まぁ気に入ってるみたいなのは確かっすけど、と
遠慮がちに遊馬崎が返し
あれぞボーイズのラブだよねぇドタチンはまぁボーイって
言うにはちょっと歳食ってるけどいいよねと
ヒートアップする狩沢に遊馬崎がハァと溜息をつく
そんな二人に気付かず
やがて門田がここだ入れと千景に示したのは
雑居ビルの中の一つのドア
入ってみるとそこは
「うわぁ。何これ解体中かよ?」
「馬鹿。逆だ。内装の途中だ。作りかけだ。」
「へーぇ。オッサンの職場?」
「まぁな。」
ワンフロアぶち抜きで
がらんどう状態の部屋は
塗装やら配管やら全てがまだ途中で
様々な道具やシート、ペンキ類で雑然としていて
しかし仕切りも何も無いのでそれなりの広い空間だ
「ここなら少々暴れても大丈夫だろう。但し何も壊すなよ?」
「了解。オッサン首になったら困るしな。」
「そういう事だ。置いてある道具類を使うのも無しだぞ。」
「解ったって。んじゃ。」
遠慮なく
行かせて貰うぜ?
と
拳を固めてニヤッとしたのは二人同時
しばらく
がらんどうの部屋に
肉が打たれる音やぶつかり合う音
床を転げる音や床を蹴る音などが響き
30分も経った頃
やっと
「今日は」
俺の勝ちだぜオッサン?
と
ニヤリとした千景が
門田の上に馬乗りになって押さえつけながら笑う
「あっは。油断した?いつも自分が勝つって?」
「馬鹿言うな。」
汗まみれになって門田を押さえつけている千景の頭にも
押さえつけられている門田の頭にも
当然の事だがもう帽子など載ってはおらず
お互い
汗で湿った髪が逆立ち乱れて
千景の髪からポタリと
汗の雫が落ちて門田の頬を濡らす
「・・・お前。どっかヤられてやがんな?」
急に門田がそれまでと変わった口調になり
千景の瞳が少しだけ細くなった
「身体の動きがいつもと違ったからな。無茶しやがって。」
「・・・へぇ。オッサンさすがだな。んで手加減したっつのかよ?」
「当たり前だ。」
「・・・サイテー。」
ガッカリだよ
と
千景が急にぐにゃりと力を抜いて門田の上から退き
門田の横に寝転がる
「手加減なんかすんなよなぁ?俺本気でやったのに。」
「あぁ、お前はいつだって本気だからな。」
「いつ、気が付いた?」
「あぁ?そうだな途中まで気付かなかったが違和感があった。」
「・・・面白くねぇ。」
「仕方無いだろう。お前が悪い。怪我か?」
「まぁな。チョット刺された。」
「何処をだ?」
「背中。見る?」
「見る、つうか。お前、傷開いてねぇか?」
「わぁ京平、心配してくれてんの?」
「ふざけてねぇでさっさと見せろ馬鹿!」
ジャケットと
シャツを
脱がせてみた千景の背中には
ぐっしょりと血の滲んだガーゼ
ガーゼから漏れた血がシャツにばかりか
上着にまで及び
あぁ畜生これ高かったのによと悔しがる千景と
お前それどころじゃないだろうと慌てる門田
知り合いに医者が居るからと
新羅のところへ千景を連れて行こうとする門田に