ふれあいランド
珍しく茶化かさず
千景は
柵に頬杖をついて猿達を眺める
その眼差しは相変わらずで
門田は今まで知らなかった千景のそんな瞳から
目を逸らせずにじっと見つめてしまう
「・・・ナンか。思い出があんだな。」
余り長いこと
千景がそうしているので
さすがに門田が気になって声を掛けると
千景がふっと笑う
「うん?そうだな。あるよ。」
凄ぇ
大事な思い出
と
千景は柵を両手で掴んだ姿勢で
うんと空を仰いだ
「・・・あんたには、いつか話すかもな?」
そう言って
千景は
いつもの少し幼い笑顔になって笑う
一人で
そんな顔するくれぇなら
今話せ
と
門田は胸につかえた言葉を口に出す事なく
あぁ
解った
とだけ頷いた
その時
猿達の餌の時間になったらしく
猿山に飼育員が入ってきて餌をまき
見て居た家族連れやグループが一斉にそちらを見て
笑ったり撮影したり
その一瞬の隙に
門田は首を取られて引き寄せられ
光の速さで千景に唇を奪われる
「・・・今日ここに付き合ってくれてありがとな。」
女好きのする顔で
ニッと微笑んで生意気に言う年下の少年に
門田は今だけは溜息をつけなかった
さっきのあんな瞳を見てしまったら
どうしたって
甘やかしてやりたくなってしまう
きっと
皆
色々なものを背負っているのだろう
言わないだけで
真近くで快活に煌めく瞳は
もう
さっきの色を少しも残してはいないけれど
行くぞ
と
門田は千景の肩に手をポンとかけて歩き出す
「え?ホテル?」
「馬鹿。飯くれぇ奢ってやるつってんだよ。」
「わぁ。じゃあ俺フルコースで。」
「馬鹿。その辺で適当に食うだけだ。」
「ショボ!けど別に何でもいいや。」
俺は
京平と一緒に居られれば満足だし
と
ポケットに両手を突っ込んで千景は
本当に満足そうにニィと笑う
「・・・お前」
いつも思うが
「俺の何処がそんなに気に入ってんだ?」
「ん?そりゃ喧嘩強ぇトコ。」
「・・・だったな訊いた俺が馬鹿だった。」
「あと」
あったけぇトコかな
と
千景が空を見上げる
「あんたも。可愛がられて育ったんじゃねぇの?」
「・・・まぁな。人並みだ。」
「あは。やっぱりね。」
人を恋うように
千景が
門田の腕に腕を絡めてくる
いつもなら
振り払ってやる門田だが
今日だけは甘やかしてやろうと思う
「あったけ。」
「つぅか。暑いだろ。」
「いーじゃんか。どうせ飯食ったらヤって汗かくんだし。」
「ヤらねぇぞ。飯食ったら帰れ。」
「えぇー。なんでさぁ。今日は俺がヤる番だろ?」
「そんな番は永遠に来ねぇ!」
いつもの会話
いつもの軽口
いつもの明るい笑い声と深い溜息
いつの間にか
「いつも」が出来てしまうほど
この男と一緒に居る時間が増えて
「いつもと違う」のが
気に掛かるほどになった事を
門田京平は知る
あぁ
やべぇな
いつの間に
と
溜息をつく門田の横で
チラとその顔を見て
千景が
いつもの
少し幼い笑顔で
笑った