すれ違って恋をして
「ふふ、ふふふ、」
誰も居ないこの一人で住むには大きな家で笑い声が響く。
それは自分の笑い声だと言うのに、まるで実感がわかない。
悲しくて切なくて愛しくて、
それでいてなんて憎らしい。
泣きたいのに、思わず笑ってしまった。
『僕、日本くんのそういうとこ、好きだな。』
『日本くんたら、案外可愛いね。』
そんな褒めてるのか嫌味なのかわからないような言葉に私がどれだけ心躍らせてるのか、貴方は知らないでしょう。
『はは、愛してるよ、日本くん。』
まるで挨拶のように気軽に貴方の口から飛び出す言葉に、「馬鹿にしないで下さい」と切り捨てるふりをして私が、どれだけ、
「馬鹿な人。」
そう呟いて本当に馬鹿なのは自分だと、そう思った。
それは数日前のことだった。
私がいつものように会議後に軽く会議室を掃除していると、突然後ろから声がした。
「ねぇ、日本くん。」
皆さんお帰りだと思っていたので、私は驚いて振り向く。
相も変わらず嫌な笑みを浮かべたロシアさんが私を見ていた。
「どうされました?忘れ物でも?」
「ううん、まだ君が残ってると思って戻ってきたんだ。」
きゅんっ、と胸が間抜けな音を立てる。
じじいの恋心は意外と厄介だ。
「私に何か御用ですか?」
涼しい顔だけは長年の経験から作ることができる。やんわりと微笑んで聞いた。
「やだなぁ、用が無きゃ話しかけちゃいけない?」
ニヨニヨと笑いながら近づくロシアさんに昔までは恐怖しか感じなかったのに、今はちょっと別の意味で怖い。
「そんなことはありませんよ。」
「良かった。」
明らかに造られた『無邪気な笑み』をいつから可愛らしく思える様になってしまったんだろう。
本当、片思いとやらはいくつになってもコントロール不可能だ。
「僕、今日暇なんだ。」
「…そうですか。」
「遊ぼうよ。」
御冗談を、と心の中で拒絶する。
二人っきりになどなりたくない、この気持ちがばれることが怖い。
「すみません、今日は私事がありまして…。」
「えー?」
笑ったまま不満げな声を出すロシアさんに私も苦笑して見せる。
「また今度、お誘いください。」
例え誘われても行く気はありませんけど、と、心の中で付け足して。
「日本くんだけが頼りなのに。」
…わかってる、その少し悲しそうな瞳も寂しそうな声も、演技だと。
それなのに、私は聞いてしまった。
「何故、です?」
この時にこんな風に尋ねなければきっと今も後悔なんてせずに済んだ。
「ベラルーシが今日、うちに来るんだよ。」
彼女の名に、思わず反応してしまう。
「おや、それならば尚更うちにお帰りになられた方が、」
「でも、僕は日本くんと居たいんだ。」
遮るように言われ、一瞬言葉が詰まる。
「っ、私は羨ましいですよ。あんな可愛い妹さんが居るのはなんとも萌えです。」
「僕はベラルーシより日本くんが好きなんだよ。」
その瞬間、私は自分を叱咤した「付け上がるな」と。
ロシアさんはベラルーシさんから逃げたいがためにそう言うだけで、きっと此処に居るのが私でなくても同じことを言っただろう。
わかってるのに、一気に体中の体温が上昇した。
顔が赤くなってないか不安で、私は俯く。
「またまた、そんなことを言って。」
「んもぅ、酷いなぁ、本気なのに。」
ロシアさんが微笑みながらそう言う。
「さ、もう帰りましょう?」
無理やりでもこの話題を終わらせて、もう帰りたかった。
これ以上一緒に居たくない。
「えー、ほんとに帰っちゃうの?こんなに愛してるのに、酷いや。」
サラッとそう言われ、『酷いのはどっちだ』と私は内心苦笑した。
「ねーねー、本当に駄目?日本くん?愛が足りないよー。」
少し甘えたようなその声に、厳しくきっぱりと断るのがいつもの私だった。
本当はこの時だってそうしようと思っていたのに、口を突いて出た言葉は違う。
今思えばやはり好きとか愛してるだとかの言葉に少しだけ浮かれていたのかもしれない。
言う気なんて本当に無かった。
「またそんなことおっしゃって、私が本当に貴方を愛したらどうするんです?」
からかったような口調に本心を隠したはずだった、のに。
「・・・え?」
ロシアさんの一瞬の戸惑った顔。
笑ってくれると思ったのに、その反応に傷ついた。
まるでそんなこと想像もしてなかったみたいに、所詮私は恋愛相手だなんて思われて無かった。
「っ、やだなぁ、冗談ですって。」
笑いたくなんか無いのに、私は笑ってそう言った。
ロシアさんは、ほっと安心したように「わかってるよー。」と笑った。
泣きたい、酷く泣きたくなった。
「日本くん?」
私の表情が歪んだことに、ロシアさんが気がついた。
「なんでもないです。」の、その一言が言えない。
「っ、本当に愛したら、迷惑、なんですね?」
言ってしまえば、もう後は終わりだ。
ロシアさんは元々鈍感ではない。
それから3日間、ロシアさんとは会議で目が合わない。
声もかけてはくれない、近寄りもしない。周りの人たちが不審がるほど、私を避けていた。
なんて簡単に壊れる関係だったんだろう。
自分で自分に笑ってしまう。
ロシアさんのあの見たことも無い驚いたような困ったようななんとも言えない顔!
思い出したら笑える。
きっと私に愛されてるなんてこれっぽっちも思わなかったんだろう。
「良い気味。」そう呟いた瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
誰も居ないこの一人で住むには大きな家で笑い声が響く。
それは自分の笑い声だと言うのに、まるで実感がわかない。
悲しくて切なくて愛しくて、
それでいてなんて憎らしい。
泣きたいのに、思わず笑ってしまった。
『僕、日本くんのそういうとこ、好きだな。』
『日本くんたら、案外可愛いね。』
そんな褒めてるのか嫌味なのかわからないような言葉に私がどれだけ心躍らせてるのか、貴方は知らないでしょう。
『はは、愛してるよ、日本くん。』
まるで挨拶のように気軽に貴方の口から飛び出す言葉に、「馬鹿にしないで下さい」と切り捨てるふりをして私が、どれだけ、
「馬鹿な人。」
そう呟いて本当に馬鹿なのは自分だと、そう思った。
それは数日前のことだった。
私がいつものように会議後に軽く会議室を掃除していると、突然後ろから声がした。
「ねぇ、日本くん。」
皆さんお帰りだと思っていたので、私は驚いて振り向く。
相も変わらず嫌な笑みを浮かべたロシアさんが私を見ていた。
「どうされました?忘れ物でも?」
「ううん、まだ君が残ってると思って戻ってきたんだ。」
きゅんっ、と胸が間抜けな音を立てる。
じじいの恋心は意外と厄介だ。
「私に何か御用ですか?」
涼しい顔だけは長年の経験から作ることができる。やんわりと微笑んで聞いた。
「やだなぁ、用が無きゃ話しかけちゃいけない?」
ニヨニヨと笑いながら近づくロシアさんに昔までは恐怖しか感じなかったのに、今はちょっと別の意味で怖い。
「そんなことはありませんよ。」
「良かった。」
明らかに造られた『無邪気な笑み』をいつから可愛らしく思える様になってしまったんだろう。
本当、片思いとやらはいくつになってもコントロール不可能だ。
「僕、今日暇なんだ。」
「…そうですか。」
「遊ぼうよ。」
御冗談を、と心の中で拒絶する。
二人っきりになどなりたくない、この気持ちがばれることが怖い。
「すみません、今日は私事がありまして…。」
「えー?」
笑ったまま不満げな声を出すロシアさんに私も苦笑して見せる。
「また今度、お誘いください。」
例え誘われても行く気はありませんけど、と、心の中で付け足して。
「日本くんだけが頼りなのに。」
…わかってる、その少し悲しそうな瞳も寂しそうな声も、演技だと。
それなのに、私は聞いてしまった。
「何故、です?」
この時にこんな風に尋ねなければきっと今も後悔なんてせずに済んだ。
「ベラルーシが今日、うちに来るんだよ。」
彼女の名に、思わず反応してしまう。
「おや、それならば尚更うちにお帰りになられた方が、」
「でも、僕は日本くんと居たいんだ。」
遮るように言われ、一瞬言葉が詰まる。
「っ、私は羨ましいですよ。あんな可愛い妹さんが居るのはなんとも萌えです。」
「僕はベラルーシより日本くんが好きなんだよ。」
その瞬間、私は自分を叱咤した「付け上がるな」と。
ロシアさんはベラルーシさんから逃げたいがためにそう言うだけで、きっと此処に居るのが私でなくても同じことを言っただろう。
わかってるのに、一気に体中の体温が上昇した。
顔が赤くなってないか不安で、私は俯く。
「またまた、そんなことを言って。」
「んもぅ、酷いなぁ、本気なのに。」
ロシアさんが微笑みながらそう言う。
「さ、もう帰りましょう?」
無理やりでもこの話題を終わらせて、もう帰りたかった。
これ以上一緒に居たくない。
「えー、ほんとに帰っちゃうの?こんなに愛してるのに、酷いや。」
サラッとそう言われ、『酷いのはどっちだ』と私は内心苦笑した。
「ねーねー、本当に駄目?日本くん?愛が足りないよー。」
少し甘えたようなその声に、厳しくきっぱりと断るのがいつもの私だった。
本当はこの時だってそうしようと思っていたのに、口を突いて出た言葉は違う。
今思えばやはり好きとか愛してるだとかの言葉に少しだけ浮かれていたのかもしれない。
言う気なんて本当に無かった。
「またそんなことおっしゃって、私が本当に貴方を愛したらどうするんです?」
からかったような口調に本心を隠したはずだった、のに。
「・・・え?」
ロシアさんの一瞬の戸惑った顔。
笑ってくれると思ったのに、その反応に傷ついた。
まるでそんなこと想像もしてなかったみたいに、所詮私は恋愛相手だなんて思われて無かった。
「っ、やだなぁ、冗談ですって。」
笑いたくなんか無いのに、私は笑ってそう言った。
ロシアさんは、ほっと安心したように「わかってるよー。」と笑った。
泣きたい、酷く泣きたくなった。
「日本くん?」
私の表情が歪んだことに、ロシアさんが気がついた。
「なんでもないです。」の、その一言が言えない。
「っ、本当に愛したら、迷惑、なんですね?」
言ってしまえば、もう後は終わりだ。
ロシアさんは元々鈍感ではない。
それから3日間、ロシアさんとは会議で目が合わない。
声もかけてはくれない、近寄りもしない。周りの人たちが不審がるほど、私を避けていた。
なんて簡単に壊れる関係だったんだろう。
自分で自分に笑ってしまう。
ロシアさんのあの見たことも無い驚いたような困ったようななんとも言えない顔!
思い出したら笑える。
きっと私に愛されてるなんてこれっぽっちも思わなかったんだろう。
「良い気味。」そう呟いた瞬間、玄関のチャイムが鳴った。