すれ違って恋をして
『私が貴方を本当に愛したらどうするんです?』
その言葉に僕は思い切り動揺してしまった。
ああ、マズイな。頭の片隅でそう思う。此処は笑って『大歓迎だよ。』とか言うべきだった。
日本くんも僕が真面目に捉えるなんて思っても無かったみたいだ。
慌てて『冗談ですって』と笑う。
はは、はっきり言って僕にその冗談は酷いよ、日本くん。
心臓に悪い、僕の心臓は落ちやすいんだから。
「わかってるよー。」と、僕も笑った。
日本くんの笑みが奇妙に歪む。
どうしたんだろう、僕は何か言ってはいけないことでも言ったっけ、と自分の発言を振りかえっていると、
『っ、本当に愛したら、迷惑、なんですね?』
え!?それ、どーゆーこと!?
と、思った瞬間には『失礼します!』と日本くんは会議室を飛び出していった。
おかげで一人取り残された僕は日本くんの発言について頭を悩ませることになってしまった。
少し、僕は苛立った。
だって言い逃げは無いよ。
明日の会議ではきっとはっきり言ってくれるだろうと、身構えてたのに。
日本くんが僕に話しかけることはなかった。
一晩頭を悩ませていた僕は「なんで?どうして?」と疑問だらけだったけど、まさか自分から「僕のこと好きなの?」なんて聞けるわけもない。
いつも飄々としていたのは僕が臆病者だという現れなんだから、ねぇ、そこのことちゃんとわかってる、日本くん?
だいたい僕がいつも君に対して「好き」とか「愛してる」とかそんな言葉をサラリというのにどれだけの勇気を振り絞っているかなんて、君は知らないでしょう?
次の日は、次の日は、と、思っているうちに3日も経ってしまった。
初日は僕の方をチラチラ見ていた日本くんも今日は僕の方を見ようとさえしなかった。
それどころか当てつけのように他国の奴らとイチャイチャしやがって。
いつもなら割って入れるのに、気まずくてそれさえ出来ない。
僕はイライラと爪を噛む。
まさか、あのことは無かったことにする気なの?
そんなこと、絶対許さない。
向こう側で「はぁい。」と間延びしたような珍しい日本くんの声が聞こえる。
ガラリとドアが開いて、日本くんの表情が固まった。
目が赤い、まるでついさっきまで泣いてたみたいに。
それが僕のせいだったらどんなに幸せだろう。
「…お帰り下さい。」
ドアが閉められそうになって、慌てて手で止める。
日本くんは必死に閉めようとしてるけどそんな弱い力じゃ意味ないよ。
なんて非力で可愛いんだろう。
僕は苛立ってたはずなのに3日ぶりの接近に酷く興奮した。
「お願いですから、帰ってください。」
「やだよ。」
自分でも思ったより冷たい声が出て、日本くんが怯えたように肩を震わす。
「…っご、ごめんなさい。」
日本くんが謝罪する。全くもって意味がわからない。
何も言わない僕が怖いのか日本くんは項垂れて、僕の方を見ようとしない。
「ごめ、なさい。あれは、嘘です、ご、め…なさい。」
途切れる謝罪に日本くんが泣いてることがわかる。
けど、ごめん。人でなしで悪いけど君の涙は僕にとって興奮材料にしかならないよ。
「何が?」
「っ、嘘、です、全部。ごめ…な、さ…。」
理解した。
やっぱりあの告白まがいの自白は全部まるごとスッキリ無かったことにしたいんだ、君は。
こんなにふざけるな、って大声で怒鳴りたくなったのは初めてだ。
「っ、で?」
「もう、私のことは…放って、ぉいて…下さい。」
ハハ、笑わせる。
こんなに震えてる君を放っておけ?
そしたらそこらじゅうの奴らが集まってきて君を慰めるだろう。
その中からまた君は好きな奴を選ぶの?
馬鹿だなぁ、もう絶対逃がさないよ。
最後の逃げ道を途絶えさせたのは、日本くん、君のほうなんだから。
「最初っから愛してるって言ったでしょ?」
僕の言葉に思わず顔をあげた日本くんに噛みつくようにキスしてやった。