帝人くんにらぶ!
「っわ、もう危ないな!」
「そうだね危ないね。玄関だし声出したら外に聞こえるかもね。コンドームとかないから、子供できちゃうかもしれないしそしたら帝人君パパだね」
「・・・あ、の、臨也、さん?」
「脱チェリーボーイが玄関マットの上って、非日常だよね帝人君?」
「いや、いやいやいや、あの、ちょっと落ち着きましょうか!」
「うん、私は落ち着いてるよ?冷静にならなきゃいけないのは帝人君のほうじゃないかなあ。私言ったよね、帝人君を手に入れるためなら手段は選ばないって」
にこにこ。
本気だ、この人は本気だ。帝人はごくりと唾を飲み込んで、目の前の臨也を凝視した。
「やめ、て・・・ください・・・っ」
情けないことに声が震える。だってマジなんだもんこの人。半泣きの帝人に、臨也はにっこりとニッコリと、それはそれは楽しそうに微笑みかけて。
「やめて欲しいなら、どうすればいいのかわかるよね?」
はい、と目の前に掲げられたのは、鍵だ。
どこの?なんて、すぐわかる。この部屋の、だ。
「・・・」
帝人はたっぷり十秒間、考えた。
今ここでこの鍵を受け取ることで待ち受ける未来と、拒否することで巻き起こるであろう大惨事。どちらを取るべきかと慎重に慎重に天秤にかけて、そしてそれは予定調和のように片方に傾く。
深く、長い息を吐いた帝人は、そのまま、ゆっくりと手を伸ばして。
「住めば、いい・・・んです、ね」
ぎこちなくそう言えば、臨也は良く出来ました、とでも言うように帝人の頭をなでる。そしてそのまま上半身をぐっと伸ばして、帝人の少し荒れた唇に自分のをそれを音を立てて重ねた。
「ちょっ・・・!」
慌てたように唇を押さえる帝人。頬が赤くなるのは仕方がない、不可抗力だ。だってこの人、美人なんだもんしょうが無いじゃないか!と心のなかで言い訳をしていると、臨也は声を立てて笑った。
「もう、帝人君ってばかわいーい!早く指先からつま先まで食べてあげたいなあ!」
「変態みたいなこと言わないでください!って、いうか、あんまりからかわないでください!」
本人が自分で言うように、臨也は確かに大人の綺麗な女性なのである。
その美貌とスタイルをもってすれば、帝人なんかにこだわらなくても、彼氏なんか掃いて捨てるほどできるはずだ。だというのにこの人が、本当に大真面目に帝人を運命の人だと呼ぶのである。
なんで僕なんだか、全然わからない・・・!
うわあああ、と頭をかかえる帝人は、まだ高校一年生なのだ。これから徐々に恋愛の経験値を積む予定だったのだ。それなのに。
「からかってなんかないもん。帝人くんは私ので、誰にもあげない。あと、浮気もだめなんだから!」
そんなセリフをサラリと吐いて、臨也は立ち上がって帝人に手を差し伸べた。
「ほら、玄関に座り込んでないで、二人の愛の巣を案内してあげるね!」
「・・・愛の巣ってなんですか・・・」
「照れなくていいよぅ、だって私たちもう将来を誓いあった仲だもんね!竜ヶ峰臨也になる日が楽しみだなあ!」
そのまま楽しみだなあ楽しみだなあ楽しみだなあ!と続けた臨也に、もはや帝人は何も言えなかった。だって何を言えって言うんだ。
やめて下さいとか妄想乙、とか、言えばいいんだろうか。言った瞬間さっきの続きが始まりそうで口にできない。あれ、僕いつこの人と将来誓ったっけ?と遠い目をしつつも、帝人は仕方がないとその手をとった。
部屋選びリクエストの時、自分の部屋をリクエストしておいて本当によかった。あとで自室に鍵をつけよう。固く心に誓う。
夜這いとか洒落にならない。ムリムリ。
「あ、そうそう、ねえ帝人くん!」
帝人の肩掛けバックを奪い取りながら、臨也はこの世の春がやってきた!とでも言うようなほわほわした雰囲気を漂わせている。
そしてくるりと振り返って。おねだりをするように両手をあわせて。
「今夜は一緒に寝るよね?」
・・・ねえ、僕の平穏な池袋ライフって、どこに行ったの。
問に答えは帰らない。
だから帝人は、爽やかに笑って答えた。
「絶対却下!」