二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
葛原ほずみ
葛原ほずみ
novelistID. 10543
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ふたりで。

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 名残惜しく思いながら、お互い兆しはじめたそこには触れず、口付けを解く。お互いの唇の間を唾液が細く銀の糸のようにつなぎ、どれだけキスに夢中になっていたんだと伊月は今更のように恥ずかしく感じた。がっつきすぎだ。
 でもそれも仕方がない。だってこんなキスさえ、本当に久しぶりだったのだ。乾ききっていた心に彼が浸透して潤っていくのが自分でわかる。
 なんとなくそのまま密着しているとまたしたくなってしまいそうだったので、伊月は日向の横に並んで座りなおした。日向も止めはしなかった。
「まー……その、なんだ。オマエいつ今度休めんの」
 照れたように視線をそらし、頭をがしがしとかきながら日向が問う。
「えっと、違うチームの進捗がちょっと遅れすぎててヘルプ入ることになりそうだから、今週末は無理だけど……」
「だけど?」
「――来週末なら、多分一日は休み取れる、と思う。……悪くても、半休ぐらいは」
 はぁ、と日向がまた深くため息をついた。
「いっつも思うけどお前んとこの会社わりとデカいのにそんなに進捗ガタガタで大丈夫なのかよ」
「この業界、わりとどこでもこんなもんだって。たまたまちょっと今回オレがつっこまれたプロジェクトがひどいだけで、他のプロジェクトはそこまでじゃないよ」
「残業はともかく休日出勤はカンベンしてほしいよなあ」
「ごめん」
「オマエが悪いんじゃねーだろ、だアホ」
 腕を伊月の肩に回し、抱き寄せるようにしながら伊月にもたれかかってくる。
「休出からの救出」
 ふと思いついて言ってみたら、日向がそのままずるずると伊月の膝の上に倒れてきた。
「ちょっとわかりにくかったかも」
 そんな気もしたので言ってみたら、彼が呻くように何か言った。よく聞こえなくて聞き返そうとしたとき、伊月の視界に時計が入り、急に意識が現実に戻る。
「日向、もう2時半過ぎてる! オマエ今すぐ寝ないとやばいだろ! 電気とかはオレが消しとくから早く寝た方がいいって!」
 慌てて日向を抱き起こす。普段ならぐっすり眠っている時間だ、それに寝るならこんなソファの上じゃなくてちゃんとベッドで寝ないと身体が休まらない。
「――……っとに、オマエは……」
「え?」
 座りきった目つきで睨まれて伊月はきょとんとする。
「ったく、そんなときばっか昔みたいな可愛い顔しやがって」
 悔しそうによくわからないことを吐き捨てた日向は、おもむろにソファから立ち上がるとあくびをしながら大きく伸びをして、じゃー寝るわ、と自室へ向かって歩きだした。
「おやすみ。ありがとな」
 その背に声をかけると、くるりと振り向いた。
「来週の週末は、覚悟しとけよ、ボケナス」
「……ナイスなボケナス」
「いらんわ!!」
 届かない裏突っ込みをして、彼は自室へ入っていった。残された伊月は、ふー……と長く息を吐き、ソファに深くもたれかかる。
 ――久しぶりだったな、ホントに。
 生活時間帯が違うから、会えなくても仕方ないと思っていた。二人暮らしを始めた当初、それで悩んだのは伊月の方だったのに、あの頃は伊月の悩みに気付きもしていなかった彼が、むしろ今は二人でいることを大事にしてくれていると感じる。ただ同じ家で眠るだけじゃ意味がない。起きているときに会えなくても、それでも彼は朝、自分に挨拶をしてくれていたのだ。ウィダーが減っていることにも気付き、今年は受験生を受け持っているから学校のことも大変だろうに、自分のことをちゃんと気にかけてくれていた。どちらかといえば自分の方が、目の前の忙しさに振り回されて、二人でいる努力を怠っていたかもしれない。
「幸せ、だよな……」
 思わず呟いて、目の奥が熱くなってくる。
 高校で思いを交わし、大学で一緒に暮らし始め、何度かすれ違いながらもそのたびに乗り越え、社会人になって、もう存在に慣れてしまって特別感が薄れたように思えてきても、それでも彼はやはり自分にときめきを与えてくれる。具体的な言葉でなくても態度で、視線で、しぐさで、どれだけ愛されているのかを思い知らせてくれる。
 日向に会えてよかった。好きになってよかった。好きになってもらえて、よかった。
 自分を内側から潤してくれるこの幸福感、これがあれば、どれだけ無茶な仕事でもガッツで乗り切れる気がする。その先にはご褒美のような休日が待っているのだ。
 ――来週末、か。
 楽しみに日数を指折り数えようとしてふと思い出したのは、覚悟しとけといったときの表情。
 あれは久々に見る、クラッチタイムの彼を彷彿とさせる不敵な笑みではなかったか。
「わー、オレどうされちゃうのかなー……」
 呟きながらも伊月の口の端は意識せずに上っている。高校の頃ならビビったかもしれないが、今ではむしろ楽しみなぐらいだ。それぐらいは大人になっている。お互いに。
 ――ニンジン鼻先にぶらさげて、明日もがんばるか。
 伊月も伸びをしてソファから立ち上がる。日向の部屋のドアを見て、心の中でおやすみ、と声をかけた。早く眠らなきゃいけない王子のキスを今日は奪いには行かないけど、そのうち自分も遠慮なく奪いにいってやろうと思いながら。




 ちなみに日向が作ってくれていた弁当は結局朝も食べられず会社へ持って行ったのだが、昼に弁当を広げたとき、むしろここまでやると嫌がらせのレベルじゃないかというぐらいベタな、さくらでんぶのハートの上に錦糸卵と海苔で書かれた「LOVE FROM JUN」の文字を会社の人間に見られてしまい、伊月はその後当分の間「愛妻弁当のジュンちゃん」ネタでからかわれるハメになったのだった。
 もちろん帰るなり寝入り端の日向に厳然と抗議はしたが、とはいえそれは週末のご褒美に影響を及ぼすものではなかったのは言うまでもない。お互いに。


END
作品名:ふたりで。 作家名:葛原ほずみ