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未来について

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「僕たち一緒に暮らしてるけど、一緒に出かけることはあんまりないねえ……」

きっかけは、健二のその一言だった。雑誌をめくりながらのさりげない一言だったので、おそらくその時読んでいた雑誌に旅行か何かの特集が載っていたに違いない。
寝ころんでテレビを見ていた佳主馬は、がばりと体を起こし、目を丸くして振り向いた。
「どっか行きたいの?!」
「え……うんと……たまにはそういうのも、いいよね……」
佳主馬の勢いに面食らって、健二がやや怯みながら頷く。佳主馬の高校卒業と同時に暮らし始めて早五年、この五年で佳主馬が思い知ったのは、健二の極端な出不精だった。
学校のある日以外はほとんど一歩も外に出ないどころか、ときどき部屋からすら出ない日もある。学校と家の往復のみで疲れきって帰ってきては、もう二度と外へは出ないという意思表示のように玄関先から靴下を脱いでくる。そうして部屋に入った瞬間にみんな服を脱ぎ捨て、あっという間に部屋着に着替えて出てくるのが日常だった。
最初の頃こそ、やれ買いものだ散歩だと健二を誘っていた佳主馬だけれど、一緒に暮らして一か月もたたないうちに誘うことを躊躇うようになった。
はじめは嬉しそうに着いてきた健二だったけれど、毎日毎晩隣にいれば出不精なことくらい嫌でもわかる。同居を始めて浮かれたばかりの佳主馬ですら気づくほどだったのだから、相当に違いない。
佳主馬だって出かけることが好きなわけじゃない。どちらかといえばインドアな方だし、家にいることを苦痛に感じることはほとんどない。だから、家で一緒に居られるならばいいかといつしか散歩や買い物に誘うことすらしなくなった。
「じゃあどこ行く?遊園地?水族館?動物園?映画?買いもの?」
雑誌を掴んでいた健二の手ごとぎゅうっと握り、佳主馬はじっと健二の目を見つめる。こういうことは、健二の気が変わらないうちに早いところ決めておいたほうがいい。
しばらく考えるように首を傾げていた健二が、しばらく経ったのちにゆっくりと唇を動かす。
「温泉が、いいなあ」
その小さな呟きを聞いた瞬間、佳主馬の指は傍らに置いてあったノートパソコンで『隠れ家 温泉』という単語を叩いていた。



「ここ、高かったんじゃない……?」
二泊分の荷物の入った大きな鞄を胸に抱いて、健二がホテルを見上げて呟いた。
「そんなことないよ。ほら、古いし」
作品名:未来について 作家名:佐竹ガム