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眼下の白

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下の白
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 1400時 特殊戦専用ブリーフィングルーム。

 2番機のパイロットとフライトオフィサに作戦概要を説明し終えたブッカーは窓際に腰掛けて窓の外の様子を見ていた。ここからは特殊戦機の格納庫の様子が一望できる。階下では作業員やフォークリフトが目まぐるしく動き回っていたがブッカーの視点は格納庫のある一点で固定されて動く事はない。
 彼の視線は3番機、雪風に注がれていた。いや、雪風というより雪風の機上にいる深井零に対して、と言ったほうが正しい。
 機上の彼は雪風に繋いだノートPCから視線を上げる気配もなく延々とキーボードを叩いている。ここからでは俯いた彼の表情や視線を読み取る事はできない。精々帽子の鍔の下から除く白い顎や唇が見えるだけだ。

 ブッカーはその白い顎にラインを見ながら彼の顔を思い浮かべる。

 細くしなやかな黒髪、前髪の隙間から覗く白い額の下には少し困った風に歪められた眉、光に当たるとすこし茶色く変化する黒い瞳、少し目を伏せると長い睫毛が(これは顔を近づけないとよく見えないのだが)黒い瞳を覆う。白人の白さとは違い、白に橙を点したような暖かく柔らかい色合いの肌。口元は一文字に引き締められ滅多に笑いの形になる事は無い。
 彼は立派な成人男性だがその顔立ちやおとなしい雰囲気から思春期前の頼りない少年のような、危な気な中性的な印象を受ける。
 しかし彼の怒りに火がつくと無機質な印象から一変して荒ぶる神、阿修羅王を思わせるような激しい強い光を宿した眼で他の者を圧倒するのだ。

 彼を見つめたり会話したり、その都度新しい発見がある。深井零という存在は神秘的な魅力に満ち溢れブッカーの興味を引いて離さなかった。
 もっと彼の深層に自分という存在を食い込ませてやりたい、そう彼の心の一番多くを占めている雪風よりも多く、深く、彼の中に潜り込みたいという欲望に駆られる。もっといえば抱いて組み敷いて、自分という存在を彼に植え付けたいと思う。暗い欲望が体を渦巻く。

 眼下の彼はそんなブッカーの想いを知らず、黙々と作業を続けていた。
作品名:眼下の白 作家名:川崎浩史