壊れ物
気付けば自分の鼻先に彼の髪の毛がかすめて、そのまま彼の唇が、自分の肩の上に乗っかっていた。自分が彼に触れていた、抱きしめていたのだと自覚したのは、後のことだった。それもほんの僅かな時間だけ。
「……じゃあ、君にこの本をあげる」
残熱をまだ静雄が感じていたとき、臨也はさっきまであれほど大事そうに抱えていたというのに、いとも簡単に静雄へ本を放り投げた。慌てて条件反射で静雄はそれを受け止めた。
「また、学校が嫌になったら、返しに来なよ。俺は、いつでもここにいるから」
それじゃあまたね、壊れた高校生。
言い棄てられた言葉は重かった。彼は鍵もかけずに、静雄を置き去りにして倉庫から出て行った。
残されたのは大量の不完全な本たちとそれに埋もれる静雄だけだった。それでも臨也に言わせれば、ここにあるそのどれもが壊れたものではなく、興味の範囲内のものなのだ。静雄は渡された本を自らの力でまた壊さぬよう、そっと持って、カウンターへと向かった。