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若紫計画

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雲雀恭弥は、フリーの情報屋である。
 彼自身はそうなった覚えもないし、そう名乗った事もない。
 ただ己の気にくわぬものを咬み殺していただけだ。もちろんそれだけでは生活等できないから、そうして得た情報を望む処に売って、それで生計を立てていた。
 依頼がくれば、それが雲雀の納得のいく獲物であり、十分な報酬が払われるならば請け負った。
 そうしていたらいつの間にか、雲雀は処理まで引き受けるフリーの情報屋として、裏の世界では名を知らぬ者が居ないほど有名になってしまっていた。

 雲雀はもとより、他人から何と言われているか、人からの評価など気にしない性質である。
 呼吸をするように獲物を咬み殺して、気に食わなくなれば昨日の依頼主にすら手を掛けた。そんな風にしているからこそ、余計に雲雀恭弥の噂は広まって行った。


 キンコロン

 キンコロンキンコロン


 キンコロンキンコロンキンコロンキンコロン

 最早雲雀の家だけではなく、隣にまで迷惑をかけそうな勢いで鳴り続けるチャイムの音に、雲雀は目を覚ました。

 キンコロンキンコロンキンコロン
 キンコロンキンコロンキンコロンキンコロンキンコロンキンコロン……

 枕元の時計を覗き込めば午後二時。一般的な大人はとっくに起きて仕事に励んでいる時間である。だが雲雀は大人であっても一般的ではなかった。昨夜も遅くまで街を駆け回り、気にくわぬ奴を咬み殺し、二、三の取引を済ませた。
 ベッドに入ったのも明るくなってからであり、まだ寝足りない。
 顔を顰めて、無視して寝てしまおうと考えた雲雀であったが、狂ったようにキンコロンと成り続けるチャイムに、まずは相手を咬み殺してからにしようと、己の得物を手に玄関へと向かった。


 ギンッ
 扉を開けると同時に振り上げたトンファーがまさか受け止められてしまった事で、雲雀の未だ身体の奥に沈む様にあった眠気はすっかり吹き飛んだ。
「よお、随分御挨拶じゃねえか」
「……なんだ、君か」
 雲雀の攻撃を、しかも扉を開けて突然のそれを受け止められる者等滅多にいない。内心驚いてしまった雲雀であったが、扉の向こうに立った男の顔を見て納得した。
 銃のグリップに引っ掛ける様にして受け止められていたトンファーを戻す。
「悪かったね」
 雲雀にしては珍しい友好的な笑みを浮かべて、客人を招き入れる様に扉を大きく開いた。
「まあ、起しちまったんなら仕方ねーな」
 男は雲雀の頭についた寝癖を示して小さく微笑みながら、促されるに従って部屋の中へ入った。
作品名:若紫計画 作家名:桃沢りく