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彼の声がでなくなる話

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 アメリカが会議室へ到着したとき、会場にはイギリスとフランスだけがいなかった。
 その瞬間に、ああ、いやな予感がするなとアメリカは思う。明確な理由があるわけではなかったけれど、あのふたりが示し合わせたようにいないときは、なにか問題が起こっているか起こそうとしているときだ。
 そんなアメリカの予感をよそに、五分ほど遅刻してイギリスとフランスは会場に現れた。
 比較的に遅刻の多いフランスと、時間には正確で遅刻などめったにしないイギリスの組み合わせに、いつもなら大声をあげて注意するドイツもどこか困惑げな顔をする。そんな場の空気を察したのか、フランスは「ごめんな」と軽く右手をあげて謝罪をした。イギリスは何食わぬ顔で、さっさと自席についている。
 続けてフランスもその隣にある自分の席へと腰をおろし、議長席にいるアメリカへと視線を向けた。示し合わせたようにイギリスもこちらを見る。
「ほんと、悪かったなあ、アメリカ。会議、始めてくれていいぜ」
 いつものへらへらとした顔でフランスはそう言い、イギリスはふいっと視線を外して書類へと視線を落としただけだった。
 なんだその態度は、とカチンとくる。べつにフランスのようにへらへらした顔で謝罪しろとまでは言わないが、遅刻して会議を遅らせたことにたいして一言詫びの言葉があってもいいだろう。
「イギリス、きみはなにかないのかい?」
 アメリカの声に、イギリスは書類へと落としていた視線をあげてこちらを見た。会場にあるほとんどの瞳が、アメリカへと向けられる。
「遅刻したことへの謝罪、きみからはないの? 俺だって遅刻したらごめんねの一言くらい言うよ」
 イギリスは、まるで言葉がわからない子供のような顔をしてじっとアメリカを見ていた。そして不思議そうに首をかしげ、シャツの襟元あたりにてのひらを押しあてながら口を開こうとする。
「っ、ほら! お兄さんがこいつの分も謝ったんだし、とにかく会議始めちゃおうぜ」
 今まさにイギリスが口を開こうとした瞬間、まるで遮るようなタイミングでフランスが大声を出した。周りもそれにうなずき、会議を始めようかという空気になりはじめる。
 なんだか、気持ちがもやりとした。けれどその答えも見つからず、アメリカは仕方なくいつものように開会の一言を告げる。
 そうしていつものように会議が始まったのだが、どうもそこでもイギリスの様子がおかしかった。
 いつもならアメリカの言葉に敏感に反応して、それはいやがらせなのかと聞きたくなるような速さで否定の言葉を口にし、ついでに人のしゃべり方や身だしなみにまで口を出してくるイギリスが、ずっと黙りこんだままなのだ。
 しかもどういうわけか隣にいるフランスと筆談で意見の交換をし、ふたりまとめた意見を相手へとぶつけてくる。
 まるで、共同国だ。結婚でもしたのかと鼻で笑おうとして、それはしゃれにならないかもしれないと思いとどまった。
 そんなふたりに周りの足並みも崩れ、会議はふたりのほぼ思うがままの意見を中心に進んだ。会議が終了になるころには、まさかこれは作戦の一種だったのではないかと勘ぐってしまいそうになるほどだ。
 どういうつもりだと、文句を言ってやりたくてしかたがなかった。だから会議が終了したと同時に立ち上がり、ふたりのもとへと行こうとする。けれどそれよりも一瞬早く、フランスがこちらに向けて手をあげた。
「アメリカ、それに日本も、ちょっとこのあと時間あるか?」
 まさかそんなことを訊かれるとは思わず、アメリカは驚いて足を止めてしまう。とっさに向けた視線の先にいた日本も困惑げだったが、けれどこちらはすぐにこくりとうなずいた。
「かまいませんよ」
「よかった。アメリカ、おまえは用事があったりしたか?」
「な、ないぞ!」
「そうか」
 フランスはホッとしたように溜息をつく。そのやり取りを座ったまま見ていたイギリスがすくりと立ち上がり、書類をつめたかばんを持った。それを見て、フランスがうなずく。
「じゃあ、えっと、下にあるラウンジに行こうぜ」
 フランスが誘導し、イギリスはさっさと歩きだす。日本もあわててかばんを持って立ち上がり、アメリカもなんだかわからないが書類の束をわしづかんでふたりの後に続いた。
 
 一階にあるラウンジは、会議を終えたスーツ姿の人ごみで埋めつくされていた。
 大事な話をするのでと一番奥の、周りから隠れるように配置されているテーブル席へと案内され、ガラス側の椅子にイギリスとその隣にフランスが座る。その反対のガラス側から日本とアメリカが並んで座り、全員の注文を聞いたフランスがウエイトレスへそれを伝えた。
 四人だけの空間になり、しばし沈黙する。そしてハア、とため息をついた後、フランスはがっくりとうつむいてしまった。
 疲労困憊、とその肩越しに見えた気がして、アメリカはなんとなく日本と視線を合わせる。いったいなにがあったのだろうとイギリスを見るが、こちらは渋い顔をしているだけだ。
 いったいなんなんだと首をかしげていると、やっとフランスが顔をあげた。そして、心底困ってますという表情で、イギリスを指さす。
「単刀直入なんだけど、イギリスの声が出ない」
「はあ?」
 アメリカと日本の声が思いっきりかぶった。フランスは深々とため息をついて、ちらりとイギリスを見る。イギリスは腕を組んだまま拗ねたように唇を尖らせているだけだ。
「ほら、俺たち体調が悪くて熱が出たりするだろ。あれの一種で、のどというか扁桃腺が腫れて声が一時的に出ないみたいなんだよ」
「ほんとうですか、イギリスさん」
 日本の問いかけに、イギリスは表情をもどしてこくりとうなずいた。そしてパクパクと口を動かしてから眉をひそめ、ハアとため息をつく。
「ああ、無理に声を出そうとするとよくありませんよ」
 うん、とイギリスはまるで子どものような仕草でうなずいた。そしてほんのすこしうつむき加減になり、きゅうと唇を引き結ぶ。
「体調が悪いってわけでもないから、できるだけ弱みは見せないように隠したいって言うんだけどな、会議でずっとしゃべらないわけにもいかないだろ」
 そんなイギリスにフランスはあきれたように言う。けれどイギリスはうつむいて視線を落したまま、ふるふると首を振るばかりだ。
「ねえ、声が出なくなってどれくらいなの」
 アメリカが声をかけると、イギリスがちらりとこちらを見る。けれどまたうつむいてしまい、隣にいるフランスがさらりと答えた。
「三日くらいだと」
「ほかに知っている方はいらっしゃるんですか」
「えーと、こいつの兄貴たちに、俺とおまえら」
「イギリスが知らせたくないって言ってるのに、どうして俺たちに教えてくれたんだい」
「おまえは議長国だから、イギリスが発言しないと絶対に不思議に思うだろ。それで、日本には協力をしてもらいたいんだ」
「協力……、なにかお役に立てそうなことがありますか」
「ああ、のどに良さそう食べ物とか飲み物とかないか」
 ああそれと、とフランスはさらに言葉を続ける。
「なんか、のどの通りもいい食べ物とかも教えてくれ。飲み込むのも痛いみたいで、イギリスながらに見ててかわいそうになってきてさー」
作品名:彼の声がでなくなる話 作家名:ことは