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彼の声がでなくなる話

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「フランスが遅いからってメールをよこしてきたよ。出口もそこだしさっさと外にでよう。きみも、ほんとその変にドジなところちゃんと治したほうがいいぞっ! こうしてヒーローな俺がいたからいいものの、俺がいなかったらほんとに朝まであそこでひとりぼっちだったんだからな!」
 そんなことはないだろうと自分の言葉に心の中で否定しつつ、ちらりと横目でイギリスを見る。
 被害妄想がひどいというか、やけにネガティブな彼はそんなアメリカの言葉を真に受けたのか、じわりと目に涙をためてぱたぱたとアメリカの後をついてきていた。
 潤む瞳がかわいいな、なんてふと考え、ぐわりとその言葉をもみ消して叩きつけて足でぐりぐりとふみ消す。
 可愛いってなんだ。相手はイギリスだ。かわいいはずがない。そんなこと絶対にない。なにせこの人は眉毛が太くて被害妄想がひどくてやけにトラウマが多いエロ大使だ。かわいいなんてそんなこと、絶対にない。
 そんなことを考えているあいだに、足はきっちりと正面玄関へと向かっていたらしい。やっと建物の外にでると、そこで待っていた日本とフランスが駆け寄ってきた。
「イギリス、アメリカ、大丈夫か」
「おふたりとも、遅いから心配していたんですよ」
 アメリカの前で立ち止った日本が、安堵した声でそう言う。それにうなづきつつも、視線はフランスとイギリスに釘付けだった。
 普段あれだけ喧嘩して罵りあい、死ねだの消えろだの暴言を浴びせかけ合いまくっているくせに、フランスがイギリスの頬を両手で挟んで怪我の確認をしているのだ。しかもその手で頬をこすり、肩をさすってから頭を撫でている。このまま放っておいたら、なんだか抱きしめ合いそうな雰囲気だった。
「おまえのこと頼まれてたのに、置き去りにしちまって悪かったな」
 猛烈に怒るかと思ったイギリスも、ふるふると首を横に振るだけだ。しかもどういうわけか頬に添えられているフランスのてのひらに自分のてらひらを重ね、じっと視線を合わせて見つめあっている。
 なんだかキスでもしそうな雰囲気だ。きみたち仲が悪いんじゃなかったっけと、なんだかイライラしてしまう。すると、あまりにもふたりを見つめていたからか、前に立っている日本がひそひそとアメリカだけに聞こえる声で呟いた。
「フランスさん、とても心配していらっしゃったんですよ。なんだかんだと言っても責任感の強い方ですし、お世話を任されたイギリスさんを置き去りにしてしまったことに罪悪感がおありだったんでしょうね」
 罪悪感だって、とアメリカは思わず半笑いになってしまった。あの態度はもっとほかの感情を含んでいるように見える。日本はそれに気づいていないのだろうか。ふたりを見ていた視線を外して日本へと向けると、彼はアメリカと視線を合わせてくれただけで、いつもとおなじ感情の読めない瞳をしている。
 これは日本を見てみても仕方がないなと、アメリカはふたりへ視線をもどした。無事の確認と謝罪は終わったのか、先ほどよりもすこしだけ距離が離れているが、寄り添うように立っている。その距離に、またムカリとした。
「アメリカ、ほんと悪かったな。ありがとう」
 フランスが苦笑いを浮かべ、イギリスはじっとこちらを見ている。視線だけで、お礼を言っているのがわかるような、ほんのすこし照れたような表情だ。
 その表情を見ていると、なんだか落ち着かない気分になった。慌ててイギリスから視線を離してフランスを見る。
「俺はヒーローだからね! たとえ取り残されたのがイギリスでも、困ってることを放っておくことなんてしなんだぞ!」
 なんだかやけに大きな声がでたうえに、自分でもわかるくらい上擦っていた。フランスは面白そうににやにやと笑ったが、ネガティブなイギリスは言葉だけを受け取ったらしい。あからさまにショックを受けた顔をして、じわりと瞳に涙を溜めて唇を噛んでいる。
 また泣かせてしまった。ふと浮かぶ後悔の念に取りつかれていると、フランスがふとイギリスを見て苦笑いを浮かべ、頭に腕を回して自分の肩口に横顔を押しつける。
「おいおい泣くなって。ほら、いつものことだろ。いい加減慣れろって」
 なんだいつもって、たしかにいつもだがフランスには言われたくない。しかもなんでイギリスを抱き込んでるんだ。イギリスも抵抗しろよ、なんでされるがままになっているんだ。
 そんなふうにアメリカがむかむかしているのに、フランスと日本は気づいているのかいないのか、普通に話を進め出した。
「とりあえず、ホテル帰るか。明日も会議あるし、さっさと帰って飯食って寝よーぜ。会議の最終日に遅刻するわけにもいかねえし」
「そうですね」
 ホテルに帰ることで決まったのか、フランスがイギリスを離す。ふたりに距離ができたと思った瞬間、反射的に腕を伸ばしていた。
 イギリスの腕をつかみ、フランスから引き離すように自分の傍へと引き寄せる。驚いて目を見開く彼のことはあえて無視して、日本とフランスのことだけを見て口を開く。
「よし、じゃあ帰ろうか!」
 そう宣言して、イギリスの腕を引いて歩き出した。ずるずると引きずられるようにしてついてくるイギリスに気を良くして、そのまま正面ゲートを抜ける。すると後ろから、フランスのあきれたような声が追いかけてきた。
「おーいアメリカー、そいつどこまで連れていく気だー?」
「へ?」
 なにを訊かれたのかわからず、ぴたりと足を止めて後ろを振り返る。
 真後ろには困ったように眉をさげてこちらを見あげているイギリスと、すこし離れたとこにあきれた顔をしているフランス。そしてその隣に、いつもの無表情な日本がいた。
「そいつ、俺とおなじホテルで方角はこっちだから、連れて行かれると困るんだけど」
 にやにやとした表情で、からかうような口調で言われて、頬がぐわっと赤くなる。それを見られたくなくて勢いよくイギリスの腕をたたき落とし、アメリカは思わず叫んでいた。
「い、イギリスが鈍くさいから連れて行ってやろうと思ったんだぞ! けどそっちだったのか、イギリスも方向が違うなら手を引いてくれたらいいのに! ほんとにきみは鈍くさいな!」
 イギリスの目に、ぶわりと涙が溜まった。
作品名:彼の声がでなくなる話 作家名:ことは